『ボヘミアン・ラプソディ』は“伝説映画”だ 虚実ないまぜに描くクイーンの絶対的な“凄さ”
祝、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)地上波放送! 本作は伝説のロックバンド、クイーンを描いた至高の一本だ。劇場公開当時は洋画不況が叫ばれるなか、日本でも大ヒットし、その後は新たな地上波放送映画の定番と化した感もある。数ある映画の中でも、なぜ同作が人々の心を掴んだのか? 今回はその点を考えつつ、同作の魅力について語っていきたい。
まずいきなりだが、『ボヘミアン・ラプソディ』は、決して事実を忠実に描いているわけではない。そもそも時系列がシャッフルされているのだ。本編で、フレディは自身がエイズに罹っていることを知り、そう遠くない死を覚悟したうえで劇中最期の舞台となる国際的イベント「ライヴ・エイド」(1985年に開催)へ向かっていく。しかし事実では、フレディが検査を受けて病気について知るのはもっと後のこと。こういった微妙な現実とのズレが無数にあるので、この映画は決して「フレディ・マーキュリーという人物の人生を正確に描いた作品」ではないのだ。
だが、この問題点こそが『ボヘミアン・ラプソディ』を特別なものにした。この映画の魅力は「最高に盛り上がるタイミングで、最高の音楽が流れる」ことにある。公開当時、上記のような時系列の調整や人間ドラマが凡庸との批判があったが、それらはすべてクライマックス、最高の音楽が約20分間に渡って展開するライヴシーンを盛り上げるための仕掛けである。言葉を選ばずに言えば、すべてはクライマックスのライヴ・エイドのシーンに向けて、観客を盛り上げるための前フリなのだ。こうした構成は、クライマックスにライヴ・エイドを持ってくれば、映画と史実の違いや、それまでの諸々の問題を帳消しにするほど、確実に盛り上がるというクイーンの音楽、ひいてはライブパフォーマンスへの絶対の自信があるからこそできたのだ。この映画を観て、クイーンというバンドの歴史を正確に知ることはできない。しかしクイーンの音楽が伝説となった理由は分かるはずだ。
こうした良くも悪くも「ウソ」を交えつつ、しかし一方で、細かなところに妙なリアリティがあるのも本作の魅力である。観ているうちに史実との違いに気が付きつつ、同時に「ん? これは表だって語られてないけど、実はマジなんじゃないか?」と思えてくるシーンも多いのだ。個人的に忘れられないのが、フレディが自身の病気についてメンバーに告白するシーンである。フレディの話に、みんなが驚きつつ「ひとまず飲みに行こうか」で話が終わる、あの空気。妙にリアルで非常に印象深い。そしてライヴ・エイドでフレディが歌い出したとき、ギターのブライアン・メイが見せる一瞬の「やっぱコイツ凄いや」という子どものような憧れと驚きの表情。そこには凡百のドキュメンタリーを超える真実味があった。というかブライアン・メイを演じたグウィリム・リーの奇跡的なソックリさんっぷりも凄まじい。主役のフレディを演じたラミ・マレックの熱演も素晴らしいが、あのソックリさんっぷりも、もっと評価されてほしいものである。
このように、『ボヘミアン・ラプソディ』は虚と実が入り混じった映画だ。しかし、クイーンの音楽という圧倒的な存在が、虚も実も飲み込んでしまっている。観終わったあとに、きっとあなたはYouTubeで実際のライヴ・エイドのシーンを見るだろう。そしてこの映画にまつわる様々なゴタゴタ(監督が途中降板したりしています)、史実の微妙な違いにも触れるかもしれない。だが、結局は「いや~いろいろあるけどクイーンってスゲェな」という点に落ち着くはずだ。そう、この映画はクイーンの歴史を伝え記した伝記映画ではない。クイーンの絶対的な「凄さ」を虚実ないまぜに描く、いわば“伝説映画”なのである。
■放送情報
『ボヘミアン・ラプソディ』
日本テレビ系にて、4月21日(金)21:00~23:24放送
※30分枠拡大
監督:ブライアン・シンガー
音楽プロデューサー:ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー
出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ、トム・ホランダー、マイク・マイヤーズ
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