『地球に落ちてきた男』続編が問いかけるもの 随所に浮かび上がるデヴィッド・ボウイの影

『地球に落ちてきた男』続編が問いかけるもの

 1976年の映画『地球に落ちて来た男』は、ウォルター・デイヴィスのSF小説を原作に、『赤い影』(1973年)などで知られるニコラス・ローグがメガホンを取り、今なおカルト映画として人気を誇っている。資源の枯渇した故郷の星を救うため、ある1人の宇宙人が地球にやってくる物語。ローグによる独特の映像美でつづられる、謎めいた宇宙人の美しくも悲劇的な半生は、主演を務めたデヴィッド・ボウイの存在感なくしては実現しなかったといっても過言ではない。ボウイの美貌や当時ドラッグ中毒だった彼が漂わせる退廃的な雰囲気が、「宇宙人」という役柄に不思議な説得力を与え、見る者を魅了する。

 そんな伝説的とも言うべき『地球に落ちて来た男』の続編テレビシリーズは、曖昧だった物語の細部を補完し、発展させた物語となっている。ここでは映画内容をおさらいしつつ、テレビシリーズではそのつづきがどのように展開されていったのか、そして随所に見られるボウイへのオマージュを見ていきたい。

映画版の謎を補完し発展させたストーリー

 映画『地球に落ちて来た男』では、ボウイ扮する宇宙人がトーマス・ジェローム・ニュートンと名乗り、9つの画期的な発明で大富豪となる。彼は稼いだ金で、故郷に帰る宇宙船を作ろうとしていた。しかし地球人の女性メアリー・ルー(キャンディ・クラーク)と恋仲になり、故郷に置いてきた妻子と彼女への想いで板挟みになってしまう。一方、宇宙船の建造はうまくいかず、ライバル会社に正体を知られたニュートンは非人道的な人体実験にかけられ、精神的に崩壊していく。彼の精神の崩壊に拍車をかけたのは、酒好きのメアリー・ルーが愛飲していたジンだった。ニュートンは酒に溺れ、人体実験によって失明し、故郷に帰る手段も失って絶望する。

 テレビシリーズでは、消息を絶ったニュートンを追って、彼の故郷からもう1人の宇宙人(キウェテル・イジョフォー)が地球にやってくる。のちにファラデーと名乗るようになった彼は、自身の故郷と地球の両方を救う鍵となる科学者ジャスティン・フォールズ(ナオミ・ハリス)を探し出し、ニュートンが残した10個目の特許を解読。地球のエネルギー危機をも救うことができる発明をもって、やはり宇宙船の開発に乗り出す。ここで面白いのは、映画では省略されていた宇宙人が地球の環境や社会に適応するまでが描かれていることだ。ニュートンはどこからかふらりと現れ、なぜかイギリスのパスポートを所持し、最初から英語も完璧に話していた。しかしファラデーは、そこに至るまでに幾度も困難にぶつかる。ニュートンも、もしかするとこうした過程を経て人前に姿を現したのかもしれない。

 一方で映画から踏襲されているものも数多くある。ファラデーはニュートンと同じく指輪を売って旅費に充てたり、ニュートンが作った球体の音楽再生装置が登場したりしている。また、ニュートンがテレビをずらりと並べて眺めていた理由が明かされたりと、映画だけではわからなかったこともテレビシリーズでは描かれていく。

 もちろん映画の重要人物だったメアリー・ルーも登場し、本作ではジュリエット・スティーブンソンが演じている。映画での彼女はひたすらにニュートンを愛していた。その想いはテレビシリーズでも変わっておらず、ニュートンが彼女にとってどれほど大きな存在だったのか、そして彼が消えたことが、彼女の後の人生にどんな影響を与えたのかが語られる。ニュートンと行動を共にていたときの彼女は、ヒステリックで即物的な欲望に忠実な女性だった。しかし45年が経った今、彼と出会ったことの意味を彼女なりに理解し、ニュートンと故郷を同じくするファラデーに力を貸す。こうしたキャラクターの変化は、オリジナルから長い年数を経て制作された続編の醍醐味といえるだろう。

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