『地球に落ちてきた男』続編が問いかけるもの 随所に浮かび上がるデヴィッド・ボウイの影

『地球に落ちてきた男』続編が問いかけるもの

随所に浮かび上がるボウイの影

 映画版がボウイの存在感なくしては成立しなかったように、テレビシリーズも彼の影響力を無視することはできなかった。各エピソードのタイトルはボウイの楽曲名となっているし、歌詞を引用したセリフもある。また、ボウイの音楽性に大きな影響を与えたジャズがニュートンのメッセージを紐解く鍵になっていたりと、そこかしこで彼へのオマージュが捧げられ、やはり“地球に落ちて来た男”とは、異星人的な異質な魅力を持ったボウイ自身だったのだと思わされる。現実でも劇中でも長い年月が経ち、ボウイも没した今、彼が演じたニュートンもまたこの世を去った設定になってもおかしくはなかっただろう。しかしボウイの存在と彼のレガシーの大きさに、製作総指揮のジェニー・ルメットは、「この物語には、トーマス・ニュートンの存在が必要だ」と考えたという。

 テレビシリーズでファラデーたちはニュートンが残したある発明を完成させ、彼がそれを作ろうとしていた目的を探っていく。ボウイからニュートン役を引き継いだのは、イギリスの名優ビル・ナイだ。飄々とした存在感を持つ彼は、つかみどころのないニュートンを演じるのにぴったりだったのではないだろうか。しかし年月を経てメアリー・ルーが変わったように、ニュートンもまた変化している。ボウイのニュートンはどこか儚げで、現れたときと同じように、いつかふわりと消えてしまうのではないかと思わせる雰囲気を漂わせていた。感情的になることもほとんどなく、なにを考えているのかわからない人物だ。ところが本作でビル・ナイが演じたニュートンは、登場した直後からファラデーを怒鳴りつけ、酒瓶片手に彼を挑発する。共同クリエイターのアレックス・カーツマンは、Entertainment Weeklyのインタビューで「映画のキャラクターの45年後を描くのではなく、全く新しいキャラクターを作り出す方が価値のあることだと考えました」と語っている。一方でこの役を演じることは、どうしてもボウイと比較されることを避けられないため、「その人自身が伝説的であり、かつボウイを真似ない俳優」としてナイがキャスティングされた。彼がボウイと面識があり、その精神を理解していることも大いに役立ったという。ナイはニュートンの現実味の薄い存在感を再現しつつも、重みのある感情を表現し、新たな異星人を生み出すことに成功してる。(※)

詰め込まれたメッセージ

 映画は退廃的な雰囲気のなかで、人間の業の深さや、その犠牲になった者の孤独を描いていたのに対し、テレビシリーズでは様々なメッセージを織り込んでいる。環境破壊に対する我々地球人の危機感のなさや、現状に甘んじ差別を温存する態度への批判などを、ニュートンやファラデーの故郷アンシアが辿った運命、そしてその社会システムと現在の地球を対比させながら描いていく。また、ジャスティンをはじめとするキャラクターたちは、過去に囚われながらもそれを克服し、再びアイデンティティを獲得しようと葛藤する。全10話のシリーズとしては多少詰め込みすぎなきらいはあるものの、どれも意味のある問いかけだ。

 テレビシリーズ『地球に落ちて来た男』は映画から45年後を舞台とし、そこでの出来事を踏襲しながら、新たな展開を見せた。映画は曖昧な部分や語られない要素が多くあり難解だが、テレビシリーズではそういった部分が丁寧に解き明かされ、腑に落ちるストーリーが語られる。良くも悪くもボウイの魅力を全面に押し出した映画版と違い、謎を解明する力強いストーリーが展開されるテレビシリーズは、続編とはいうものの、新しい物語として魅力的だ。オリジナルの映画を知っていても知らなくても楽しめる作品になっている。またボウイのファンであれば、散りばめられた彼へのオマージュにニヤリとしてしまうことだろう。

参照

※ https://ew.com/tv/the-man-who-fell-to-earth-bill-nighy-david-bowie/

■配信情報
『地球に落ちて来た男』
U-NEXTにて独占配信中(全10話)
出演:キウェテル・イジョフォー、ナオミ・ハリス、ジミ・シンプソン、ソーニャ・キャシディ、ケイト・マルグルー、ジョアナ・ヒベイロ、アネル・オラレイ、ロブ・ディレイニー、クラーク・ピータース、ビル・ナイ
原題:The Man Who Fell to Earth/2022年/アメリカ・イギリス/カラー/デジタル
©2022 CBS Studios Inc. All Rights Reserved. 

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