多部未華子「こんなに悩んだのは初めて」 『幸運なひと』を通して感じた“エゴ”の大切さ

多部未華子が感じた“エゴ”の大切さ

 NHK BSプレミアムで放送されたドラマ『幸運なひと』。再編集のうえ4月4日に前編、4月11日に後編がNHK総合で22時から放送される。本作の「若くしてがんで夫を亡くす夫婦の物語」という大枠のあらすじだけを読めば、いわゆる「難病もの」と思うかもしれない。しかし、タイトルが表す通り、決して本作は「お涙頂戴もの」ではなく、今をいかに生きるかという前向きなメッセージが込められたすべての人のための一作となっている。

 主人公・拓哉(生田斗真)の妻・咲良を演じた多部未華子は、がん患者の妻という難役をどう演じたのか。本作について、話を聞いた。

「こんなにセリフの一行一行に悩んだのは初めて」

ーー本作はガン患者を描いた物語ではありますが、「闘病記」ではなく、日常を丁寧に描いているところに新しさを感じました。

多部未華子(以下、多部):がんを扱うお話と聞いたときは、悲しい物語になると思っていたんです。ですが、脚本を読んで、実際に撮影を重ねる中で、とても前向きな夫婦の物語だと感じました。たとえ病気になったとしても、生活は続いていくし、考え方や見え方が180度変わるわけではありません。目の前にある生活、“日常”は変わらないんです。観ていただける方にも、彼らの姿を見て、少しでもプラスの気持ちを持っていただけたらなと。がんの夫を持つということは、自分が体験したこともなければ、身内にもいなかったので、どのように演じたらリアリティのあるお芝居になるのかと悩みながら向き合う日々でした。

ーータイトルの『幸運なひと』だけを見たら、がん患者を描いた物語とは思わないですよね。

多部:そうですよね。実は最初の仮タイトルは違ったんです。なので、「最終的に『幸運なひと』に決まりました」と聞いたときはびっくりする部分もありました。ご覧になった方にどう感じていただけるかわからないのですが、お芝居を通して、拓哉と咲良は“幸運”だったと私は感じました。本当に挑戦的なタイトルだったと思います。

ーー撮影する前にはがん患者のご家族だった方にもお話を聞いたそうですね。

多部:若くして旦那さんをがんで亡くされた方とお話させていただきました。お話を伺っていて、私とは見てきた世界が違うと感じましたし、その生き方に衝撃を受けました。その方はとても明るい方だったのですが、その裏には本当に計り知れない苦労や悲しみ、寂しさがあったことも感じました。印象的だったのは、闘病中も毎日を楽しみながら過ごしていたという点で。旦那さんとも今を大事に楽しもうと接していたと。絶対に葛藤はあったと思うのですが、当時のことをお話する表情がとても明るく、すごく素敵な笑顔だったんです。それがとても不思議で。いろんなものを乗り越えてたどり着いた笑顔の中に、愛と人間としての強さを感じました。それは今もずっと心に残っています。撮影前にお話を聞けたことは本当に貴重な機会でしたし、演じる上でもとても大きかったです。

ーー非常に難しい役柄だったかと思うのですが、現場ではどのように役を作り上げっていったのでしょうか?

多部:拓哉の言葉や、突然の境遇に対して、咲良として冷静でいるべきなのか、動揺するべきなのか……台本上はどのようにでも変更できる部分もあって、この一言がサラッと流せるのか、そこだけはちゃんとしっかり受け止めといてほしいとか、そのセリフの言い方や匙加減が本当に難しかったです。お芝居には何か“正解”があるものでもないと思うので、その点は最後まで悩みました。こんなにセリフの一行一行に悩んだのは初めてかもしれません。

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