『べらぼう』は“私たちの生きる指針に” 蔦屋重三郎の魅力を脚本・森下佳子に聞く

『べらぼう』脚本・森下佳子インタビュー

 横浜流星が主演を務めるNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』がいよいよスタートする。脚本を手がけるのは、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』、NHKドラマ10『大奥』、日曜劇場『JIN -仁-』(TBS系)など、傑作と呼び声高い時代劇を生み出してきた森下佳子。大河ドラマでも人気の戦国時代・幕末ではなく、戦のない江戸中期を舞台に、蔦屋重三郎(蔦重)という一般的知名度は決して高くない人物をどう描いていくのか。放送を前に話を聞いた。

森下佳子にとって蔦重は“憧れ”

――『べらぼう』第1話を観ての感想を教えてください。

森下佳子(行か、森下):台本は作業をするための設計図だと言われますが、今回は設計図というよりも、もはや種だったという気がしています。私が書いた台本が種で、出来上がったものが森という印象を第1話を観て受けました。木がいっぱい生えていて大きな世界観になっていた。それはスケール感の大きい火事のシーンを観て感じたことです。蔦重(横浜流星)が残した文献や書かれた資料を見て、蔦重はパワフルで頭の良く、成り上がって生きていきながらも、周りに愛されたというのが私にとっての憧れなんですよね。そんな人間になれたらいいだろうなと思っていて、そこに演じる横浜さんが乗ったのがちょっともうヤバくて。好きになりすぎるんじゃないかという、今ちょっと危険な状態にいます。横浜さんは明るく引っ張っていく役というよりは、内に秘めた思いや熱を繊細に作っていく役が多かったので、横浜さんが演じる蔦重の想像がつかない部分も大きかったんです。蔦重ってこんな感じだったんだということを、私が投げかけられた感じがしました。

――蔦重が憧れということですが、特にどういったところに魅力を感じますか?

森下:蔦重は商人として訪れた土地を繁栄させていきながら、周りの人の面倒を見てきたと書かれていて、なんてカッコいいんだろうと、そんなふうに生きられたらいいなと思いました。蔦重が残したものはどれも明るく洒落ていて、笑いのセンスもすごいんです。本を作ったのは蔦重だけの力ではなかったとは思うんですけど、商才もセンスもある、そんなふうに生まれたかったと思ってしまいます。

――森下さんにとっては、『おんな城主 直虎』以来8年ぶり、2度目の大河ドラマになります。

森下:『直虎』の時と違うのは、資料が山のようにあって、今は資料の海に溺れかけております。ただ、今の時代とも近しく、出版とは時代を映していくものだと思うので、『直虎』の時はその時代を生き抜く一家の話でしたが、今回はこの時代がどういうふうに動いていたのかを描くことで、今の私たちが生きる指針にもなると思っています。

――江戸時代中期を描くことをどのように捉えていますか?

森下:江戸中期は身分制度が社会のベースにあって、生まれた時からどこまで出世できるかが決まっているんですよね。段々と支配階級における武士の力が弱まってくる、その隙に蔦重のような商人が出てきた。そういった意味では少し自由になってきた時代ではあるのですが、生き死にをかけた戦いからは遠くなっていて、その時代の人たち――『べらぼう』の登場人物が何と戦ったかは、私たちが今戦っているものとあまり変わりはないんじゃないかなと。どんな人でも戦いながら生きていると思うんです。

――蔦重が出版した浮世絵作品の数々が作中でどのように紹介されるのかも注目しています。

森下:蔦重はプロデューサーとして、なぜ、どうやって、何を考えてそれを作ったのかということが蔦重の物語だと思うので、それを説明して見せていきたいとは思っていますが、その作品一つひとつの全貌は、この尺の中では語り尽くせません。そこは物知りのみなさんが、こんなに面白いんだよということを世間に広めるお手伝いをしていただけたらと思っています。

――蔦重の出版作品の中ではどれが好きですか?

森下:私は『廓𦽳費字尽』(さとのばかむらむだじづくし)が大好きで、こんな本が日本にあったんだと感動しました。この本は『べらぼう』本編でも出てくるので、注目していただきたいです。『江戸生艶気樺焼』(えどうまれうわきのかばやき)は、井上ひさしさんが『手鎖心中』としてリブートして直木賞を受賞している作品で、黄表紙の中にはそういった面白い作品があるんだという、手に取るきっかけになればと思っています。絵師として長い間、蔦重と関わってくるのは喜多川歌麿(染谷将太)だと思うんですけど、彼の美人画だけではないすごさが伝わるようにしていきたいとも思っています。

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