『水星の魔女』Season1にあった池井戸潤作品的面白さ 捨てないでほしい“ビジネス”描写
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のSeason2が、4月9日からスタートする。
本作は、MS(モビルスーツ)と呼ばれる巨大ロボット兵器が登場する『ガンダム』の最新作。2022年の10月から今年の1月にかけてSeason1が放送された。
物語の舞台はモビルスーツに関わる人材育成を目的とするアスティカシア高等専門学園。水星からパイロット科に転入してきたスレッタ・マーキュリーは、経営戦略科のミオリネ・レンブランの“花婿”となったことで運命が大きく変わっていく。
※本稿はSeason1の結末に触れています。
本作はモビルスーツについて学ぶ学校を舞台にした学園アニメとして始まった。女性主人公と決闘で学園の頂点を決める特殊な世界観が提示された『水星の魔女』は、幾原邦彦監督のカルトアニメ『少女革命ウテナ』との類似性が当初、話題となった。しかし、前衛的な映像で難解な物語が展開された『少女革命ウテナ』に対し『水星の魔女』は、わかりやすい映像表現を用いたわかりやすい物語が展開されており、学園の頂点に立つ御三家と呼ばれるイケメン男子学生にスレッタが戦いを挑むことで周囲に認められていく展開も、神尾葉子の人気少女漫画『花より男子』(集英社)を『ガンダム』の世界にうまく落とし込んでいると言えるだろう。
『花より男子』の王道少女漫画的展開を筆頭に、本作はガンダムシリーズにこれまで触れてこなかった若者層を取り込むための工夫が試みられている。何より一番の工夫は、宇宙を舞台に複数の武装勢力がモビルスーツで戦うという架空の戦争を中心に置いた歴史を描くというガンダムシリーズならではの世界観を全面に打ち出していないことだ。
もちろん、細かく作品を観ていけば、モビルスーツ開発を背景にした企業間の対立やスペーシアン(宇宙移民者)とアーシアン(地球移民者)の分断と衝突といった複雑な対立軸とその背後にある歴史が難解な専門用語を駆使して描かれていることがわかるのだが「そこはわからなくても問題がない」ように本作は設計されており、まずはスレッタを中心とした学校の人間関係とモビルスーツ同士の派手な決闘を観ていれば、深く考えなくても楽しめる作りとなっている。
また、台詞もキャッチーで、女性同士が婚約することに困惑するスレッタに対してミオリネが言う「水星って、お堅いのね」「こっちじゃ全然ありよ」(第1話)や、横暴な父親に対してミオリネが憤って叫ぶ「自分で決めたルールを後から勝手に変えるな。このダブスタクソおやじ!」(第2話)といった印象に残る台詞が毎話登場し、SNSで話題となった。
とにかく物語に入るための敷居が異常に低く、作品世界に入りやすいというのが『水星の魔女』の成功要因だろう。これはシリーズ構成・脚本を担当した大河内一楼の力に依るところが大きい。
『革命機ヴァルヴレイヴ』や『甲鉄城のカバネリ』といったアニメの脚本やシリーズ構成で知られる大河内は、スピード感のある物語と、シリアス過ぎて時にコミカルに見えるエキセントリックなキャラクターが繰り出すキャッチーな台詞、そして節々に挟まる露悪的な描写と唐突な超展開によって、視聴者の関心を引っ張ることに長けた脚本家だ。
特に出世作となった『コードギアス 反逆のルルーシュ』における、終盤の超展開とクライマックスで物語を極限まで盛り上げた末に、第2シーズンに続くクリフハンガーは今では伝説となっている。