映画『BLUE GIANT』が体現したジャズの精神とは? 立川譲監督が語る“感情の乗せ方”
「『俺にも下手くそって言えよ』なんて、やっぱ言えないんですよ(笑)」
ーーところで、「二度とないこの瞬間を全力で鳴らせ」というキャッチコピーは誰が考えたんですか?
立川:これは宣伝チームですね。
ーーちょっと思い切った質問なんですが、もし監督がいまキャッチコピーをつけるとしたら、どんなものにしますか?
立川:なんでしょうね……(笑)。でも、なんかこのコピー、本当にぴったりですよね。制作中、彼らは本当にこう思っているだろうなと思って作っていたんです。ただ、大が高温すぎて赤を通り越して、そして青く光っているという話なので、ビジュアルもそういうビジュアルにしたんですよ。青い光に照らされて、陰が伸びてる感じ。大は、熱すぎてずっと側にはいられないキャラクターのつもりだったんです。高温すぎて、近くに行くと溶けてしまう、みたいな。もしかしたら体にとって毒なのかもしれない。なので、熱すぎて近寄れないっていう方向性のキャッチコピーにすると思います。「熱すぎて、触れない」とか。
ーー大の熱量の表現ですね。
立川:そうですね。分かりづらいって却下されそうですが(笑)。
ーーあと、映画鑑賞中にいちファンとして伝わってきたのが「この映画を作った人はみんな熱い人たちなんだろうな」という実感でした。
立川:そんなことはないんですよね(笑)。でも、石塚先生はイメージそのまんまって感じです。自分はあまり感情をあらわにするタイプではなくて、どちらかと言えば淡々と作っていく感じですね。ただ、内側に絶対こうしないといけないとか、自分の中でのプライドだったり、こだわりみたいなものが外に出てるのかもしれないですけど。
ーーどっちかというと雪祈タイプですね。
立川:そうですね、玉田みたいにはなれないですね。あんな、「俺にも下手くそって言えよ」なんて、やっぱ言えないんですよ(笑)。
「“生命力”みたいなものを出す感じがリンクする瞬間があった」
ーー本作は、実写映画としてもあり得るテーマだと思います。アニメ化されるに至った経緯そのものは多く語られているところですが、制作を終えたいま、“アニメでやる意義”はどこにあると考えていますか?
立川:特に演奏シーンに関してはアニメーションの強みが出ていると思います。まず原作者の石塚さんも気にされていたのが、実写だとキャラクターが実物の人間なので、そこから出てる音みたいになってしまうのが嫌だったんです。サックスを吹いている人と役者は全く同じ人にしたい、というところに強いこだわりがあったんですよ。例えば大の声優を務めた山田裕貴さんが実写で演じられたとして、サックスを吹く演技をしたら、それは山田さんが鳴らしたことにしたいんです。別の奏者を立てて後で当てる、みたいなことはしたくなくて。もし実写化するのであれば、サックスが世界レベルで上手な人で、かつ演技ができる人じゃないといけないのかなと思います。
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ーー確かに、それを実現するにはアニメでしか表現できないですね。
立川:ただ、僕自身が思っていることは、それとはあんまり関係なくて。表現方法が、実写だとかなり制約されてしまうんですよね。しかしアニメーションであれば大きさを変えたり色を変えたり、絵を変形したりしても違和感なく受け入れてくれるし、そのバリエーションがすごくたくさんあるので、表現方法としてはアニメーションの方が豊かなんじゃないかと思っています。アニメーションで0から描いている、その“生命力”みたいな感じのものがジャズの根幹にすごく合っているのかなと。絵が動いたりとかエフェクトが散ったりとか、ノイズのようなものが作ってる最中でたくさん生まれていくんです。それがジャズのアドリブとすごく似ているというか、その“生命力”みたいなものを出す感じがリンクする瞬間があって、それが刺さっているのかなと思います。
ーー制作中にアドリブの要素って結構入るんですか?
立川:やっぱり、アニメーターが描いてきたアガリはその場の判断で決めていかなきゃいけないんですよね。本来そういう方向性ではなかったものを、その人のアガリを見て変えるとか、そういうことはあります。上原さんがおっしゃっていたことで印象的だったのは、演奏シーンでカメラワークが客観に入ったり、イメージの作画に振ったり、主観のような視線に切り替わる表現が、ジャズの演奏者が感じている“それ”と近いらしいんです。この部分は「どのようにしてこんな表現にしたんですか?」というようにすごく尋ねられました。それで「何回も何回も聴いて、考えたらこうなりました」と答えると、「私たちの意識が飛んで、すごく高いところから俯瞰で自分を見ているように感じるときや、景色が走って流れていくような瞬間が描かれている」と、すごく褒めていただいて。ただ、そのときは制作も佳境で死にそうだったので、「あ、どうも」みたいな曖昧な返事しかできなかったです(笑)。今思うとあの言葉に救われていたはずなのに。
ーー監督も意識が飛んでいたんですね(笑)。
立川:上原さんはその時に「天才ですね」とも言ってくれて、そのときはスルーしてしまったんですけど、「いや上原さんが天才だろう」って思いますよね(笑)。ちゃんとお礼を言いたかったなって思います。
ーー上原さんと密に制作されていたのが伝わります。作画の部分でインスピレーションを受けた作品はありますか?
立川:今回は制作前に、ジャズの演奏シーンがある実写映画を何本か観ました。ですが、それらでされていたような演出にはしておらず、それよりも自分が観てきたアクションアニメの感じが強く出ています(笑)。企画書にも、ジャズのライブシーンはアクションアニメのカメラワークみたいな感じでやりたいと書いていました。特に「音楽もの」としてこれを踏襲してやろう、みたいなことはなかったですね。新しい表現というか、もっとジャズがいろんな人に届くような、何かキャッチーな映像とか、そういうものを目指しました。
ーーあのライブシーンのイメージはアクションアニメだったんですね。タイトルで言うとどのあたりですか?
立川:なんでしょうね……。でも、自分をアニメ業界に導いたものの一つでもある、『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、『エヴァ』)はやはり入ってきますね。当時中学校3年生だったんで、ちょうど『エヴァ』世代です。もちろん直接的には関係ないですが、でもアニメーションの生々しさとか生命力みたいなものは『エヴァ』の中にも宿っていて、引き付けられて一生忘れない景色がありますね。そういうものがジャズと合っているというか、その瞬間でしか生まれない音楽とマッチしている感じがします。それが“これ”なのかなと思います、「二度とないこの瞬間を全力で鳴らせ」というキャッチコピー。
ーーそう考えると本当にいいキャッチコピーですね。改めて監督にとって、キャリアの中で『BLUE GIANT』を作ったことについてどう捉えているんでしょうか?
立川:まず、『BLUE GIANT』はすごく(制作が)難しい作品でした。ただ、この『BLUE GIANT』という作品が自分に何をもたらして、どういう立ち位置にいるか、というのはまだ俯瞰視できていないんです。SNSでコメントを見て嬉しかったりとか、口コミで広まって誰かに届いていると感じることで思うことももちろんあるんですけど、まだ総括して見れていない感じです。この先どうなるかがまだわからないというか。でも、かなり大変な部類の作品で、命を削って作った感じがあります。それは間違いなく。
ーー最後に、観客の方にメッセージをお願いします。
立川:『BLUE GIANT』は1本の映画として強度がある作品だと思います。そして今作は「原作を読まずに映画を観ました」みたいなコメントを初めてと言っていいくらいたくさん見るんですよ。ですが、原作にはやはり魅力が随所に散りばめられていて、かなり削ってしまった仙台編もやっぱり面白い。だから原作も楽しんでいただけたらと思います。大のその後も描かれているので、その先も読んでいただいて、振り返って映画を観てもらえればまた別の楽しさがあるのかなと思います。あとは、原作に出てきて、映画では出てきていないジャズの曲を少し絡めた演出をしていたりするので、登場しているジャズの曲を聴いてからまた映画館に戻って楽しんでいただいたりと、いろんな楽しみ方をしてもらえると嬉しいです。
■公開情報
『BLUE GIANT』
全国公開中
出演:山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音ほか
原作:石塚真一『BLUE GIANT』(小学館『ビッグコミック』連載)
監督:立川譲
音楽:上原ひろみ
演奏:馬場智章(サックス)、上原ひろみ(ピアノ)、石若駿(ドラム)
脚本:NUMBER 8
アニメーション制作:NUT
配給:東宝映像事業部
©︎2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©︎2013 石塚真一/小学館
公式サイト:bluegiant-movie.jp