『罠の戦争』鷲津の復讐劇が完結 草彅剛がもたらしたエンターテインメントの王道

『罠の戦争』草彅剛が生んだエンタメの王道

 ドラマの中で緊急釈明会見が始まったのはちょうど22時30分。そこから約10分をかけて鷲津の逆転劇が描かれる。正確に言うなら、それは一方的に悪を成敗するのではなく、痛みをともなう覚悟の自爆だった。凄惨すぎる幕切れにもかかわらず、全てが終わって胸に残るのは希望にも似た晴れやかな心持ちだ。

 思えば、鷲津亨という人間は初めから欠落していた。第1話で復讐を誓った時点ですでに鷲津は失いはじめていた。秘書として政治家に従っていた鷲津は、政界の闇に見て見ぬふりをしていたが、当事者となることで復讐心が燃えたぎった。その炎は理不尽に抗う弱者の正義となって鷲津を押し上げる一方で、自ら身を浸した政界の毒にもむしばまれていく。だからこそ、紆余曲折を経て人間性を回復した安堵感は、何ものにも代えがたいまぶしい輝きを放っていた。

 復讐劇とピカレスク・ロマンに貫かれた『罠の戦争』は女性たちの物語でもある。日本初の女性総理を目指した鴨井(片平なぎさ)。すべてを知った上で支える蛍原。親友を亡くした過去を持ち、一歩を踏み出す可南子。男たちのパワーゲームをよそに、彼女たちは自らの道を歩む。第9話のNPO法人の講演会で可南子が掲げた「誰も傷つかない世界の目指し方」は本作の裏テーマでもあった。

 視聴者に仕掛けた伏線とミスリードの罠を経た最後のどんでん返しは、シンプルで強烈なカタルシスが感じられた。それは本作が演出面で成功したことを伝えているが、この王道感は草彅剛という役者の存在を抜きに語ることはできない。観終えてから、そこで得たものを多くの人と共有できる体験は最良のエンタメがもたらすもので、私たちがSMAPに求めていたものでもあった。あらためて草彅剛の帰還を祝福したい。

■配信情報
『罠の戦争』
TVer、FODにて配信中
出演:草彅剛、井川遥、杉野遥亮、小野花梨、坂口涼太郎、白鳥晴都、小澤征悦、宮澤エマ、飯田基祐、本田博太郎、田口浩正、玉城裕規、高橋克典、片平なぎさ、岸部一徳ほか
脚本:後藤法子
演出:宝来忠昭
演出・プロデューサー:三宅喜重
プロデューサー:河西秀幸
音楽:菅野祐悟
主題歌:香取慎吾×SEVENTEEN「BETTING」(Warner Music Japan)
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/wana/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる