『なのに、千輝くんが甘すぎる。』高橋恭平×畑芽育の“走り”は必見 心を表す重要な描写に

『千輝くん』は“走る”シーンが魅力的

 青春映画の花形シーンといえば走るシーンである。思春期の感情を爆発させるかのように、走る描写からは若々しい情動を観客に与えることができる。そしてその定番とも言える走るシーンが効果的に使用されている作品が『なのに、千輝くんが甘すぎる。』だ。今回は走るシーンを中心に、今作の魅力について迫っていきたい。

 『なのに、千輝くんが甘すぎる。』は、亜南くじらによる同名漫画を実写映画化した作品。人気ジャニーズグループである、なにわ男子の高橋恭平が千輝彗役で主演を務め、注目の若手女優である畑芽育が、ヒロインとなる如月真綾役を演じている。監督は『四月は君の嘘』などで若い男女の青春を多くとらえてきたベテランの新城毅彦が務めている。

 人生初の告白に失敗した如月真綾(畑芽育)は、陸上部のエースであり学校一のモテ男子の千輝彗(高橋恭平)と交流を持つことになる。千輝から「片想いごっこ」を提案された真綾は、失恋を忘れるためにもそのごっこ遊びに興じることに。次第に2人の距離は縮まっていく中で、様々なトラブルが巻き起こる、といった青春恋愛作品となっている。

 古今東西、若い人々の情熱を扱った映画はとにかく走る。洋画では『ロッキー』や『愛と青春の旅だち』などが、走るシーンが作品の象徴的な場面として挙げやすい。アニメでは『時をかける少女』や、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』などが思い浮かぶ。また近年の邦画では『ちはやふる』シリーズも走るシーンが作品の中で重要な役割を担っている。

 そもそも、なぜ青春映画では走るシーンが多く用いられるのだろうか? 様々な理由が考えられるが、筆者としては以下の理由を挙げたい。

①青春映画における日常的なアクションであること
②物語における“タメ”と“ツメ”の両方を発生させるに適していること

 娯楽映画である以上、観客に爽快感・疾走感を与えるような物語の見せ場となる映像が求められる。かといって青春や恋愛映画というジャンルでは、アクション映画のような肉体的なバトルがそぐわない作品もある上に、役者の鍛錬にも長い時間が必要だ。その際に、「走る」という行為は日常的な動作でありながら、映像的にもダイナミックな印象を与えることができる。

 また最も身近でわかりやすい動作だからこそ、そこに「若さ」を感じることができる。2005年から放送されている『全力坂』(テレビ朝日系)では、アイドルや俳優が、ただただ全力で坂道を走るというだけの内容でありながら、深夜番組では定番のコンテンツとして定着している。走るという行為からは、映像における快感を生み出すことができると同時に、若さや情熱を感じさせる効果があり、それが一定の人々に娯楽として受け止められているということだろう。

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 タメとツメという言葉はアニメーション制作において絵やCGで動きを作り出す際に、用いられることが多い。例えば野球の投球動作を思い浮かべると、投げる前の構えから投げる準備の振りかぶる動作などをタメ、素早く一気に腕を振りながら投げる動作をツメとしてメリハリをつけることで、より躍動感を印象づける技法だ。

 これを映画の物語に置き換えると、最も大きな見せ場の前に走るシーンを入れておけば、物語そのものは進行せずにタメの状況になる。しかし映像では走るという躍動感があるシーンであることから、観客に対してこの先の展開への高揚感を与えることができる。つまり物語における見せ場の前のタメと、映像的な快楽というツメが両立する手法なのだ。

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