『舞いあがれ!』第23週担当、佃良太脚本の持ち味は? “状況を作り出す”演出的な手腕

『舞いあがれ!』佃良太脚本の持ち味は?

 第10週、学生寮のルールをやや破って消灯時間を過ぎて部屋を行き来していた舞と柏木(目黒蓮)が食堂のテーブルに潜ってドキドキする場面、第11週、ソロフライト中、天候悪化に見舞われ進路を変更して不安な舞を、大河内教官(吉川晃司)が飛行機に乗って助けに来る場面、第23週、台風で停電になり、真っ暗ななかでランプの灯りを見つめながら語らう久留美と悠人(横山裕)と、舞と貴司(赤楚衛二)の場面……と、佃回は閉ざされた空間という緊張感のなかで登場人物の心が動くことでアクチュアリティーを感じさせる。作りものの世界のなかで唯一、作りものでないのは俳優の呼吸や鼓動であって、それを非日常的な空間によって作り上げている。

 佃がNHKの創作テレビドラマ大賞を受賞した『星とレモンの部屋』(2021年/NHK総合)にもそれが顕著だった。自室に引きこもった主人公(夏帆)を心配する母(原田美枝子)が突然倒れる。どうしていいかわからなくて、ネットでやりとりしていた人物(宮沢氷魚)に相談すると彼もまたのっぴきならない事情を抱えていて……。引きこもりの男女がそれぞれの閉ざされた空間からどうやって一歩踏み出すかという話をドメスティックにまとめず、大胆な飛躍があるにもかかわらず、共感できる。狭い世界に息を潜めている実感、外界に出る恐怖、何かしなくてはいけないと掻き立てられる逡巡……等々の実感を描き出す仕掛けが巧みなのだ。脚本家というとセリフが命と思いがちだが、佃には状況を作り出す、演出的なところに才能を感じる。

 一方、メインライターの桑原はセリフ(言葉)を信じている作家である。短歌に代表される、言葉はあるゆる限界、障害を超えて、人間を自由にする。どんなに狭い空間にいても目線は広く遠い宇宙を見ている。舞いあがるために生まれてきた主人公が、翼を折っていまは地上を這いつくばっていたとしても、まざなしはつねに高い空にあり、なんにでも思うまま挑戦していく。その無敵感は、作家の言葉を信じる力に根ざしているのではないだろうか。

 佃がガタゴトと呼吸するように脈動する部品としたら桑原はそれらの力を受けて飛翔するエネルギーである。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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