赤楚衛二は“言葉の旅人”である 『舞いあがれ!』で立ち上げた心優しき貴司像

『舞いあがれ!』赤楚衛二は“言葉の旅人”

 放送中の朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)にて、赤楚衛二が演じる“貴司くん”こと梅津貴司がついに最大の輝きを放ち始めた。ヒロイン・岩倉舞(福原遥)が歩むメインストーリーに対し、サブストーリーを展開させてきた貴司。これまではそれらがクロスしてきたものだが、二人が結ばれたことにより晴れてその道筋が一つになったのだ。

 本作で赤楚が演じる貴司は、舞の小学時代からの幼なじみ。岩倉家の隣にあるお好み焼き屋「うめづ」の一人息子で、パワフルな両親に育てられた。彼も両親に似て威勢のいい青年になるかと思ったが、そうはならなかった。高校卒業後に就いたシステムエンジニアの職を生真面目すぎる性格がゆえに断念せざるを得なくなってしまったほど。その後は舞や両親の前から姿を消し、放浪の旅へ(後に五島で発見される)。この一大決心から貴司のサブストーリーは始まり、本作において特別なキャラクターとなった。単なる舞の幼なじみではなく、彼女の歩むメインストーリーを彩る人物でもない。独自の道を歩む貴司は、本作において固有な人格を獲得した数少ない特別な人物なのだ。したがって、“舞の相手役”などという記号的なキャラクターでは決してない。ここに本当の意味での彼の自立が示されている。

 これを実現してみせる赤楚の演技には何度も唸らされたものだ。そもそも彼は作品におけるポジション(=役割)取りが的確で、時間をかけてじっくりとその地盤を固めてきた。山口智充&くわばたりえコンビが扮する梅津夫妻の底抜けの明るさや、言うべきことはきちんと言葉にする幼なじみの望月久留美(山下美月)の性格とも対照的。控えめで優しく、クールでなければキザでもない。放浪の旅を経て歌人となって以降、つねにまろやかな調子で微笑を絶やさず舞を見守ってきた。と同時に、歌人としての壁に何度もぶつかってきた。赤楚のポジション取りの的確さとそのパフォーマンスを崩さない持久力も見事だが、これは人物配置をはじめとする脚本の妙があってこそのものでもある。みんなの憩いの場である「うめづ」にいつも貴司だけいないことも、彼のキャラクターを物語っているだろう。

 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 舞いあがれ! Part1』(NHK出版)にて赤楚は「貴司はすごく優しくて、押しつけがましさは一切なく、人に寄り添えるタイプ。(中略)僕は俳優という仕事柄、自分と向き合うことが多いので、貴司が心の内をことばで表現しようとするところ、人とは違う角度で疑問を持つところ、『なぜ、今、こういう気持ちなんだろう』と自分と向き合い、それを探るべく本を読むところなどに共感します」と語っている。貴司の優しさと傷つきやすさは、想像力が豊かだからこそ。他者のことをより深く考えるあまり、自分が背負わなくていいものまで背負ってしまう。しかし劇中に見られるかぎり、その相手はほとんど舞だけだった(実際は職場などでもそうだったはずだが)。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる