『舞いあがれ!』古舘寛治に聞く、俳優としての矜持 「“面白いもの”を妥協せず作る」

古舘寛治に聞く、俳優としての矜持

 現在放送中のNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』もいよいよ佳境。本作で主人公・岩倉舞(福原遥)が働く株式会社IWAKURAに古くから務めるベテラン職人・笠巻久之を演じているのが、俳優の古舘寛治だ。会社の精神的支柱として、寡黙に佇むその立ち姿だけで、さまざまな感情を想起させる奥行きのある芝居を見せた古舘が、本作で演じた笠巻へのアプローチ方法や、俳優としての矜持、未来について語った。

笠巻はこれまで演じたことのないような役

『舞いあがれ!』(写真提供=NHK)

 古舘が演じる笠巻は、舞の父親である浩太(高橋克典)の懐刀として工場を支えてきた一級品の腕を持つ職人。多種多様な人が集まるなか、寡黙にネジと向き合う職人気質な性格は、先輩、後輩問わず誰からも一目置かれる存在だ。

「僕の俳優キャリアとしては、髭を生やしたエキセントリックなキャラクターで仕事が来るようになってしまったので、テレビドラマを観ている人はそう思わないかもしれませんが、割と偏った役柄を演じることが多かったんです。その意味では、笠巻という人物は、市井にいる技術職の人。“普通”というのは正しい言い方じゃないかもしれませんが、日本はもともと加工業で栄えた国ですから、笠巻みたいな職人はたくさんいたんじゃないかなと思うんです。僕にとってはいままでやったことがないような役で、『こんな役もできるんだ』と意外性を感じてくださった人も多かったみたいなんです。言い方は変ですが“おいしい役”だったような気がします」

『舞いあがれ!』(写真提供=NHK)

 笠巻は寡黙であまり感情を表に出さない人物だが、その佇まいや機械を見つめる視線など、視聴者にさまざまな思いを抱かせてくれるような深いキャラクターだ。笠巻が工場にいるだけで、そこの従業員たちがホッとするような存在感を立ち姿だけで表現している。

「あまり種明かしするのもどうかなと思うのですが、笠巻というキャラクターについてはいろいろなチャレンジをしています。例えば、ずっとネジと向き合ってきた人物で寡黙ということだったので、 あまり人とのコミュニケーションが得意でないと考え、人と話をしているときに相手の目を見ない人にしました。今回は出演シーンが多かったので、割と普段あまりやらないような挑戦はしました」

僕は一番面倒くさい俳優(笑)

 日本の連続ドラマの現場は時間に追われることが多く、芝居について監督とコミュニケーションを取る時間が限られているという。特に連続テレビ小説のような毎日放送されるような作品は、時間との勝負みたいな部分がある。

「基本的にはしっかりと芝居について現場で監督や俳優と語り合えるような時間があるのが理想ですが、なかなか今の日本の現場では難しい。だから『こういう感じがいいかな』というアイデアは、直接演じてみて、OKが出たらそれで行こうという判断のなかやっています」

 「面白いもの」を作るために、ディレクションする側、演じる側がしっかりとお互いの意見をぶつけ合うことが必要だという古舘。そこには自身が若かりし頃、約5年間に渡ってニューヨークで演技を学び、モノ作りの方法論を学んだ経験に裏付けされている。

「欧米人というのは、その現場にいる人間はみな対等であり、上下関係がないという考えを持っている。だからどんな人間でもしっかりと意見をぶつけるんです。そうやっていいものに仕上げていく。制作過程のなかで、試行錯誤する時間も織り込み済みなんです。でも日本ではやっぱり上下関係というのはあるし、なかなか下に位置づけられている人間が、意見を言いづらいですし、そもそもそんな時間がないですからね。僕なんかいちいち意見するから、間違いなく面倒くさい俳優ですよね(笑)」

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