ムロツヨシの怪演続く 『星降る夜に』『どうする家康』で見せた不気味な笑顔

『星降る夜に』ムロツヨシの怪演続く

「久しぶりです。元気でしたか、先生」

 その人から滲み出る、実際の言葉と表情以上の憎しみが観る者を戦慄させた。

 『星降る夜に』(テレビ朝日系)第6話において、エンドクレジットでもずっと名前が伏せられていた出演者が明らかになった。主人公・雪宮鈴(吉高由里子)をずっと付け回してきた“謎の人物”を演じるムロツヨシだ。

 ムロに怖いイメージを持つ人はそう多くはないだろう。19歳の時に役者の道を志し、小劇場を中心に長い下積み期間を過ごしたムロ。なかなか芽が出ずにいた彼の運命を変えたのが、福田雄一監督と言われている。ムロは“福田組”と呼ばれる福田監督に愛された俳優の一人で、2011年に第1期が放送された『勇者ヨシヒコ』(テレビ東京)シリーズにはじまり、映画『銀魂』や『50回目のファーストキス』、ドラマ『新解釈・日本史』(MBS・TBS系)、『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)など数多くの作品でタッグを組んできた。

 福田監督が得意とするコメディでブレイクを果たしたムロは自身を“喜劇役者”と名乗る。だが、喜劇と悲劇は常に紙一重。役者の面白おかしい演技に負の感情がこもった瞬間、喜劇は一気に悲劇へ転じる可能性を秘めている。

 そこに賭けたのか、大石静脚本のドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)の製作陣は、ムロに若年性アルツハイマーを患うヒロインの相手役を託した。同作は若年性アルツハイマーにおかされる医師の尚(戸田恵梨香)と、彼女をけなげに支える小説家・真司(ムロツヨシ)の10年に渡る歩みを描いたラブストーリー。いつか愛する人の顔も名前も忘れてしまう尚の哀しみも、恐怖も、悔しさも、申し訳なさも全て真司は「俺は尚ちゃんじゃなきゃ嫌なんだから」と受け止める。例えるなら、彼は静寂に包まれた夜の海。自分自身も親に捨てられた壮絶な過去を持ち、人間の暗さも知っている真司の優しさをムロは体現した。

 初主演映画『マイ・ダディ』でも、ムロは白血病を患った娘のために奔走するシングルファザーを好演している。時に情けなくも映る彼の表情と仕草を見ていると、思い出すのはチャップリンの「人生は近くで見ると悲劇だが、 遠くから見れば喜劇である」という名言だ。愛する人の病は間違いなく悲劇だが、ムロのコミカルとシリアスが同居した演技によって最後に振り返った時に作品全体が温かい空気感に包まれる。

 だが、同じ悲劇は悲劇でもまた違った味わいを出すことも。昨年公開された映画『神は見返りを求める』の吉田恵輔監督は見たこともないムロの表情を引き出した。ムロが演じたのは、イベント会社に勤める男・田母神。その名の通り、見返りを求めない神のようにお人好しな彼は合コンで知り合った売れないYouTuberの優里(岸井ゆきの)の動画撮影を手伝うようになる。

 だが、突如として有名人となった優里に雑に扱われ、次第に復讐鬼と化していく田母神を怪演したムロ。彼が浮かび上がらせた、見返りといってもただ「ありがとう」の言葉をほしがったに過ぎない悲しき男の姿は観る人を恐怖させたり、涙させたりと『大恋愛』や『マイ・ダディ』とは別軸の感動を与えてくれた。特にラストシーンにおけるムロの名演が作り出した、映画『ジョーカー』さながらの後味の悪さが尾を引く。

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