『ブラッシュアップライフ』が肯定するすべての人生 バカリズムの集大成と言える一作に

『ブラッシュアップライフ』が肯定する人生

 優れた脚本は、優れた役者のポテンシャルを最大限に引き出す。本作に登場する、安藤サクラをはじめとする主要キャストの面々は皆、映画の主演を張れる役者ばかり。名優たちが楽しんでいることが画面越しに伝わる「名演合戦」も見ものだ。麻美、美穂、夏希、福田、田邊(松坂桃李)、玲奈、このドラマに登場する人々の「本当にそのままいそう」な存在感が素晴らしい。

 「テレビ好き」「ドラマ好き」のツボをついてくる小ネタもニクい。麻美が2周目・3周目の乳児期、退屈な時間を埋めてくれた『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)にはじまり、さまざまな番組が劇中に登場するが、これがそのまま、麻美が生まれた1989年から2023年までのテレビ史にもなっている。

 麻美が保育園生のときにリビングのテレビの上に積まれたビデオテープには『家なき子』(1994年/日本テレビ系)のラベリングが。麻美、美穂、夏希の幼なじみ3人組は、小学校時代から「ドラマクラブ」を作るほどのドラマ好きで、3人が作ったレビューノートには『ナースのお仕事2』(1997年/フジテレビ系)、『ビーチボーイズ』(1997年/フジテレビ系)、『ラブジェネレーション』(1997年/フジテレビ系)など、懐かしのヒットドラマのタイトルが並ぶ。美穂、夏希の小学生らしい「感想文」に比べて、人生2周目、3週目の麻美の寸評だけ、やや大人びた文章というのも芸が細かい。

 また、たまごっち、プロフィール交換、シール帳、ゲームボーイアドバンス、プリクラなど、当時のカルチャーが適材適所に組み込まれ、ドラマに花を添えている。時代を彩った音楽を、伏線や重要なポイントとして組み込み、毎回EDに流す手際も鮮やかで、これぞ「カタルシス!」(小学校時代に麻美たちの間で流行ったワード)といったところ。

 キャストの過去の出演作にからめた「小ネタ」にもニヤリとさせられる。ドラマ好きが高じて日テレのドラマスタッフになった麻美の、一人暮らしの部屋に置かれた数多のDVDの中には『それでも、生きてゆく』(2011年/フジテレビ系)のBOXが。安藤サクラが、雨宮健二(風間俊介)の過去を知る不気味な女役で爪痕を残したドラマだ。

 麻美の元カレ・田邊がカラオケで歌うのはGReeeeNの「キセキ」。これは、ヒット曲「キセキ」を生み出すまでのGReeeeNの実話を映画化し、松坂桃李が主演した映画『キセキ ーあの日のソビトー』(2017年)へのオマージュだろう。

 宮岡と玲奈の不倫を阻止するために麻美が「夢庵」で待ち伏せした日。玲奈の口から「私、『けもなれ』毎週欠かさず見てたよ」「すご〜い。ガッキーじゃん」と言わせ、黒木華が京谷(田中圭)の元カノ役で出演した『獣になれない私たち』(2018年/日本テレビ系)にサラリと言及してみせる。

 反抗期真っ盛り、中学生の麻美がふてくされながら読んでいた漫画『NANA』は、のちに2度映画化され、『NANA2』(2006年)の「ハチ」役をつとめたのは、しーちゃんこと静香を演じる市川由衣だ。

 こうした「お楽しみ要素」たっぷり、そして緻密な作劇と「カタルシス」で、観る者を楽しませつつも、このドラマ、とても哲学的なテーマを描いている。2周目でグアテマラ南東部のオオアリクイ、3周目でインド太平洋のニジョウサバに転生すると告げられて不満げな麻美に対し、死後案内人(バカリズム)は言う。

「『人間がいちばん』というのは、あくまでも人間の価値観でしかなくて、生まれ変わる生命に特に序列はないんですね」

 何度「やり直し」をしても、だいたい似たような生き方を選ぶ麻美を通じて、「平凡な人生の肯定」をしている。ドラマチックな出来事なんて起こらなくたっていい(あるいは起こってもいい)。有名にならなくたっていい(あるいはなってもいい)。その人らしい人生がいちばん尊いのだ。小さな選択がもたらす、小さな変化が、のちに大きな幸せにつながるのかもしれない。

 人間にも、オオアリクイにも、ニジョウサバにも「序列」がないように、どんな生き方をしようと、認められてよい。「こうあらねばならない」という選択肢の少なさが、現代人を生き辛くさせているのではないか。誰の人生も肯定されるべきであり、「どんな選択肢もあるのだ」と、このドラマは言っているような気がする。

■放送情報
日曜ドラマ『ブラッシュアップライフ』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送
出演:安藤サクラ、夏帆、木南晴夏、松坂桃李、染谷将太、黒木華、臼田あさ美、鈴木浩介、バカリズム
脚本:バカリズム
演出:水野格、狩山俊輔
プロデューサー:小田玲奈、榊原真由子、柴田裕基(AX-ON)、鈴木香織(AX-ON)
チーフプロデューサー:三上絵里子
企画協力:マセキ芸能社
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/brushup-life/
公式Twitter:@brushuplife_ntv
公式Instagram:@brushuplife_ntv

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