『THE LAST OF US』原作よりずっと厳しいジョエル 苦しみと罰を背負うペドロ・パスカル

『THE LAST OF US』暴力の代償

 前週からさらに数字を積み上げて視聴者数640万人を記録し、名実共にTVドラマ史に残る傑作回となった第3話から1週間。原作ではペンシルバニア州ピッツバーグに至るところを、ジョエル(ペドロ・パスカル)とエリー(ベラ・ラムジー)はさらに足を伸ばしてカンザスシティに到着する。第4話はグラミー賞授賞式の裏番組だったにもかかわらず、17%増の視聴者数750万人を記録。シーズン折り返しとなる第5話を前に、これまでよりもぐっと短いランニングタイム45分のタイトなセットアップだ。監督は『アンブレラ・アカデミー』で知られるジェレミー・ウェッブ。彼が続けて第5話も担当することから、今回はさしずめ“カンザスシティ前編”といったところか。

 荒廃したアメリカ中西部をジョエルとエリーが移動する。多くのアメリカ映画が描いてきたように、旅路は異なる者たちの絆を紡ぐと同時に、生きるための過酷な業を背負わせていく。原作ファンにはお馴染みのエリーのダジャレノートが登場し、厳しい表情を浮かべ続けてきたジョエルの頬も思わず緩む。方や荒廃したランドスケープに目を凝らせば、あちらこちらに打ち捨てられた戦車や遺体が積み上げられ、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめとした現在の戦争を思わずにいられない。エリーが見つけてきたカセットテープは原作版と同じハンク・ウィリアムズによる「I'll Never Get Out of This World Alive」だ。

 カンザスシティにFEDRA(=軍)の姿はなく、代わって街を支配しているのはメラニー・リンスキー演じるTVシリーズ版オリジナルのキャラクター、キャスリンと武装組織だ。FEDRAの軍事独裁に抵抗し、勝利を収めたキャスリンはヘンリーなる男の行方を追うためなら拷問も辞さず、地下で蠢く目前の脅威は恣意的に情報を隠すなど、その姿勢は軍と変わらず強権的。旧ソ連で起きた原発事故と政権の隠蔽体質を描いた『チェルノブイリ』といい、クレイグ・メイジンの権力に対する懐疑的な姿勢は一貫している。TVシリーズ版には取り入れられていないが、原作ではビルの口から印象的な台詞が語られていた「感染者は動きが読める。本当に怖いのは人間だ」。

 原作ゲームで“ハンター”と総称されるモブ敵キャラクターの1人1人に、クレイグ・メイジンは名前と顔を与えている。ジョエルとエリーを襲った略奪者は返り討ちに遭うや、自らをブライアンと名乗り、命乞いする。しかしこの男を生かすことと、身動きもできない彼に貴重な銃弾を使うリスクは、幾多の修羅場を乗り越えてきたジョエルにとって自明の理だ。ペドロ・パスカル演じるジョエルは原作よりもずっと厳しい。寡黙で、表情を少しも変えず、人を殺めてきたことの逃れようのない苦しみと罰を背負い続けている。彼が躊躇なく決断を下す姿に、エリー共々、私たちもうろたえてしまう(ベラ・ラムジーの演技が素晴らしい)。“敵”も同じ人間であることを強く印象付けていく演出は、シーズン2にあたる原作ゲーム続編『The Last of Us Part II』に取り入れられているメソッドで、ジョエルとエリーは取り返しのつかない暴力の代償を積み重ねていくこととなるのだ。

 さて、次回第5話はスーパーボウルの優勝決定戦が開催されるため、何と放送日を繰り上げて日本時間2月11日(土)に配信される。第4話ではグラミー賞、そして最終回となる第9話ではなんとアカデミー賞とバッティングする強気の番組編成を組んできたHBOだが、さすがに国民的大イベントには視聴者を譲った格好だ。これを機会に週末はシーズン前半のクライマックスをぜひとも楽しんでもらいたい。

■配信情報
『THE LAST OF US』
U-NEXTにて独占配信中
脚本・製作総指揮:クレイグ・メイジン、ニール・ドラッグマン
監督:クレイグ・メイジン、ニール・ドラッグマン、ピーター・ホアー、ジェレミー・ウェッブ、ヤスミラ・ジュバニッチ、リザ・ジョンソン、アリ・アッバシ
出演:ペドロ・パスカル、ベラ・ラムジー、ガブリエル・ルナ、アナ・トーヴ、ニコ・パーカー、マレー・バートレット、ニック・オファーマン、メラニー・リンスキー、ストーム・リード、マール・ダンドリッジ、ジェフリー・ピアース、ラマー・ジョンソン、キーヴォン・ウッダード、グレアム・グリーン、エレーヌ・マイルズ、アシュレー・ジョンソン
日本語吹替キャスト:山寺宏一、潘めぐみ、高橋広樹、田中敦子、朴璐美
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公式サイト:https://www.video.unext.jp/title_k/the_last_of_us

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