『すずめの戸締まり』などアニメ映画の興行で定着した入場者特典　コストは億超え？

特典制作のコストは？

　しかし、特典を制作するのもタダではない。そのデータは表には出てこないが、複数用意する場合はかなりの額が投入されているのではないかと思われる。

　通常、ミニ冊子を作成するにも1冊あたり数十円程度のコストがかかる。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の特典第1弾のミニ単行本は450万部用意されたが、これだけで相当なコストなはずだ。普通に考えると億は超えているだろう。

　『鬼滅の刃』のようなメガヒット作品だけでなく、中規模ヒットのアニメ映画でも複数の特典を用意するのが当たり前になっている。例えば、『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』（以下、『転スラ』）では第5弾まで特典を用意した（※5）。

　第1弾「紅蓮の絆編 0巻」は80万部、第2弾「＜ディアブロ＆ヴィオレ＞描き下ろし特製イラストカード」は30万部、3弾以降の数は非公表だが、2種類だけで110万部だから、これもかなりの金額を割いていると思われる

　そのかいもあってか、リピート鑑賞者も生まれ、『転スラ』も息の長い上映を続けて最終興行成績は15億円を見込んでいるようだ。

　その特典の予算があれば、テレビCMを大量に打つことも可能だろう。しかし、こうしたアニメ作品は例えばゴールデンタイムにCMを増やしてどの程度、興行の増加が見込めるだろうか。おそらく特典の方が集客率が高い施策なのだろう。

　要は、宣伝としてどこに予算を投入するかが変わったということなのだろう。実際に、劇場に足を運ぶ動機の調達と口コミプロモーションを一度に作れる特典は、効率の良い販促施策と言えるかもしれない。

　しかし、どんな作品でも入場者特典で成績を伸ばせるというものでもない。結局、作品自体に観たいと思わせる力があることが前提で、その前提なしにいくら特典を用意してもなかなか良い結果は生まれない。2022年公開の実写版『鋼の錬金術師』2部作には原作者描きおろしの特典がついたが、興行成績は結局振るわなかった。

　日本トレンドリサーチのインターネット調査は、同じ映画を劇場で2回以上観た理由を訪ねている。特典を理由に挙げる人もいるが、もう一度感動したいという声の方が多そうだ（※6）。

　特典は、もう一度劇場に足を運ばせるために背中を押す効果はるだろうが、主要因ではないのかもしれない。あくまで映画をもう一度観て感動したいという動機がやっぱり大きいのではないか。

　時代に応じて「商法」が変わるのが当然だ。特典商法についても、今、映画を売るために必要なことは何かという観点で議論することが大切だろう。入場者特典は、明白に集客効果を高めているだけでなく、筆者の考えでは、（特典内容によるが）映画の理解を深くしてくれたり、劇場体験を向上させることにも貢献していると思う。

　マス宣伝だけでは必ずしも集客できない現代、映画館に足を運んでもらうための工夫はこれからも様々に変化していくはずだ。

※記事初出時、一部の表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

参照

※1. 前売り・入場者 “特典” の効果は？｜KIQ REPORT：調査とデータで映画トレンドを徹底解析 https://kiq-report.com/Item/382
※2. 入場者プレゼント分析 https://gaie.jp/news/archives/464
※3. 東宝『すずめ～』前週比126％、興収130億円突破 - 文化通信.com https://www.bunkatsushin.com/news/article.aspx?id=219630
※4. http://jc3.jp/wp/wp-content/uploads/2020/06/1_film_exhibition2.pdf
※5. Present | 【公式】「劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編」 https://movie.ten-sura.com/present/
※6. 映画館で映画を観たことがある方の36.9％が「同じ映画を映画館で2回以上観たことがある」 https://trend-research.jp/14462/

■公開情報
『すずめの戸締まり』
全国公開中
原作・脚本・監督：新海誠
出演：原菜乃華、松村北斗、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉、花瀬琴音、花澤香菜、松本白鸚
キャラクターデザイン：田中将賀
作画監督：土屋堅一
美術監督：丹治匠
音楽：RADWIMPS、陣内一真
主題歌：「すずめ feat.十明」RADWIMPS
制作：コミックス・ウェーブ・フィルム
制作プロデュース：STORY inc.
配給：東宝
©︎2022「すずめの戸締まり」製作委員会
公式サイト：https://suzume-tojimari-movie.jp/
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