『THE FIRST SLAM DUNK』は原作未読でも楽しめる? 漫画評論家に聞く

『SLAM DUNK』原作未読で楽しめる?

 年が明け2023年に入ってからもなお、『THE FIRST SLAM DUNK』の勢いが止まらない。

 公開前にあらすじなどが明かされず、TVアニメ版からの声優の変更には否定的な意見も多く寄せられた『THE FIRST SLAM DUNK』。だが蓋を開けてみれば公開初週から大絶賛の嵐。「こんなに話題になっているのなら観たい。でも、漫画原作を読んでいないとノれないのでは……」と躊躇している人も多いのではないだろうか。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』公開後PV 30秒 【絶賛上映中】

 原作者である井上雄彦が自ら脚本・監督を手がけた映画『THE FIRST SLAM DUNK』は、実際に原作未読でも楽しめるのか。漫画評論家の島田一志氏は、「原作未読でも観られます」と語る。(※以下、ネタバレ含む)

「一本の映画としてよくできているので、楽しめると思います。原作は高校1年生の桜木花道が主人公ですが、映画では原作と主人公を変えていて、宮城リョータというポイントガードのポジションの高校2年生になっています。かなり大胆な演出なんですが、成功していると思います。批判的な意味ではないのですが、原作だと、彼らがどういう家に住んでいるか、どういう家庭環境なのかなど、部活以外のことがほぼ描かれていない。『週刊少年サンデー』(小学館)の漫画は細かく背景となる家族を描くことが多いですが、『週刊少年ジャンプ』(集英社)や『週刊少年マガジン』(講談社)の漫画はあまりそこを重視してない節がある(もちろん例外はあります)。『SLAM DUNK』は特にそうで、メインの選手5人+1人のメインキャラクター6人が、どんな家から登校しているのか、どういう家庭環境で育っているのかなどがほぼ描かれていません。一方、今回の映画では、宮城リョータにスポットが当たっていて、彼の家族も出てきます。原作はバスケに特化しているのでそれでいいんですが、少年なりに抱えているトラウマみたいなのもあるので、キャラクターを立てるという意味では、映画ではより深みが出ている。原作を全く知らなくても、宮城リョータというキャラクターに感情移入できるように作られています」

 全31巻ある原作を読まずとも観れる……だが、『SLAM DUNK』という作品については、最低限の前情報として押さえておきたい。『SLAM DUNK』は連載当時、若者たちに何をもたらしたのか。

「『週刊少年ジャンプ』の1995年3・4合併号が、発行部数653万部を超え、史上最大発行部数を記録しました。当時は『SLAM DUNK』と『DRAGON BALL』が2枚看板で、ほかにも『るろうに剣心』や『ジョジョの奇妙な冒険』などが連載されていました。『SLAM DUNK』は錚々たる作品の中で看板を張っていたので、当時10〜20代だった若者には絶大な影響があったと思います。その上の世代となる1960年代に流行っていたのが『週刊少年マガジン』で連載されていた『あしたのジョー』で、当時は単なるボクシング漫画の域を超えて、若者の思想やスタイルにまで影響を与えていました。時代背景が違うのでイコールではないですが、『SLAM DUNK』もそれに近い、単なるバスケ漫画を超えた『青春の書』ともいうべき趣きがありました。バスケ部の監督である安西先生の『あきらめたらそこで試合終了ですよ』という名セリフがありますが、それはスポーツ以外のあらゆることにも当てはまります。『SLAM DUNK』は、そういう教えをかつての少年たちに刻み込んだ漫画なんだと思います」

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