『ばけばけ』の素晴らしさは“外れた人”の描き方にあり トキは独自の朝ドラヒロインに

『ばけばけ』トキは独自の朝ドラヒロインに

 後半戦に突入した朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。新年最初の週となった第14週『カゾク、ナル、イイデスカ』(演出:村橋直樹)では、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)が結婚することになった。

 第13週のラストでお互いの気持ちを確かめあったふたり。第14週では出雲大社に愛を誓う。日本滞在記執筆のため、神の都・杵築に来ていたヘブンはトキを呼び出し、杵築の宿で重要な話をする。過去に負った心の傷によってこれまで誰とも深い関係性にならないようにしてきたヘブンが涙ながらにトキのそばにいたいと想いを告げた。

 杵築の宿のシーンで印象的なのは、宿での告白も、出雲大社の参拝も錦織(吉沢亮)が傍らにいることだ。トキとヘブン、ふたりのことなので、おじゃま虫的なことにもなりかねないが、通訳としては伴走しないとならない。実務的なことを抜きにしても、いつしか、ヘブンと錦織には友情が芽生えていて、人生における大事な瞬間に立ち会っていてほしいと思われるような存在になっているのだろう。ついこの間までは単なる通訳と言われてむっとしていた錦織だが、「友人」と言われて「your friend?」と確認し、表情を和らげていた。

 トキへの想いを自覚すると同時に、錦織をかけがえのない友人と考えるようになったのだろう。

 第14週の最終日、第69、70話で行われた結婚披露パーティーにも当然、錦織は参加し「だらくそがー」と松野家と雨清水家とヘブンと一緒に叫んでいた。これからずっと一蓮托生の関係でいることになるにちがいない。制作統括の橋爪國臣チーフプロデューサーは以前、『ばけばけ』はある意味、トキとヘブンと錦織の物語だと言っていたから。

 求婚からパーティーまでには一波乱あった。トキは感情に任せて順序を誤ってしまった。この時代、結婚とは家と家との結び付きであるから、当人同士の恋愛感情で結婚を決めることは規則に則っていないことになる。しかもヘブンは外国人。家の格をあれだけ重んじてきた松野の男たちが何を言うかわかったものではない。さらに、問題が。結婚したら、給金20円が支払われなくなる。おもしろいのは同じように家事をしても妻になるとお金が発生しないという事実である。令和になると、主婦の家事の年収換算が可視化されるようになるとトキたちに教えてあげたい。

 トキ自身は妻になれば、生活費はヘブン頼りになるから玉の輿。だが問題は雨清水家に渡していた10円である。もともとトキはこのために女中になったのに、そんなことはすっかり忘れてそれなりに女中の仕事を満喫していたのだ。ヘブンに恋までして。ヘブンは自身を「通りすがり」と呼んだが、トキは「流されがち」なところがある。定まらないという点において似たもの同士なのかもしれない。

 給金がもらえなくなった日、三之丞(板垣李光人)がヘブン宅に訪ねて来て、ヘブンと鉢合わせ。ふつうに親戚だと紹介すればいいのに、そこはドラマ。トキはあたふた、ヘブンは元彼か何かかと勘繰って機嫌を悪くする。そんなときも錦織が気を利かせて、これまでの経緯をヘブンに説明する。ほんとうに錦織なくては成り立たない物語だ。だがヘブンはトキたち一家が隠し事をしていることが気にいらない。錦織は日本特有の「建前」だとフォローするが……。

 有能な錦織だが「隠し事」と「建前」はちょっと違う気もする。何かを頼まれたときに断る気だが「検討します」というようなことが「建前」だ。あるいは、面白いとは思っていないのに「面白い」ととりあえず言っておくことだ。角を立てない配慮である。ただそれを外国人に詳しく説明するのが難しいので、その場は少し簡単にまとめてしまったのかもしれない。「三之丞さんは三之丞さんです」というトキのその場をとりつくろう言葉を「Sannojo is Sannojo」とまんま訳していることからして、有能な錦織ではあるがまだまだ英訳を極める途上なのだろう。

 それこそ、トキがお金欲しさに結婚したと思われたくなかったと吐露していたが、むしろこれこそ「建前」でほんとはお金がほしかったとするのがよくあるパターンであろう。だがトキは本当にお金のことを忘れて、恋に夢中になっていたようなのだ。人間ってほんとうにおもしろいものである。

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