【追悼・高橋幸宏さん】大林宣彦監督作品で開花した“映画俳優”としての姿

 こうして大林映画へ1本きりの主演を果たした高橋だが、大林との関係は、これだけでは終わらなかった。高橋のミュージックビデオ集『A FRAGMENT』は、『四月の魚』と連動して大林によって作られ、料理のうんちくを語る高橋の姿など、撮り下ろし映像も多数含まれた遊び心あふれた1本になった。何より、高橋と大林の相性の良さがうかがえる内容になっているのが微笑ましい。

 その後も、大林は『天国にいちばん近い島』で高橋に音楽監督をオファーしたが、残念ながらスケジュールの関係で実現しなかった(原田知世の父親役で高橋が出演したのはそのため)。

『海辺の映画館―キネマの玉手箱』©2020「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」製作委員会/PSC

 その後は、『異人たちとの夏』を最後に、高橋と大林の関係は途切れるが、30数年の時間を経て旧交を温めることになったのが、大林の遺作となった『海辺の映画館―キネマの玉手箱』である。この作品で高橋は堂々たる狂言回しを演じ、冒頭と終盤に味わい深い語り口で登場し、ドラムまで披露する。

 この出演は、大林の妻であり、プロデューサーの大林恭子が聖路加病院の眼科で、ばったり高橋と再会したことが縁となって出演が実現したもの。結局、これが映画監督・大林宣彦と俳優・高橋幸宏の遺作になった。

 大林映画以外にも、高橋は『20世紀少年 <最終章> ぼくらの旗』『ノルウェイの森』などに出演しているが、これらはミュージシャンの余技というべき雰囲気が漂う。ところが大林映画に出てくる高橋は、〈俳優〉になってしまう。これはミュージシャンではなく、俳優として大林が惚れ込んでいるからに違いない。

 それにしても、『四月の魚』の映画監督役に始まり、『天国にいちばん近い島』の父親役、『海辺の映画館―キネマの玉手箱』の狂言回しと、大林映画における高橋幸宏は、大林宣彦に代わって画面に登場しているかのようだ。柔らかい口調で優しく語る高橋は、大林が自身を投影できる唯一無二の存在だったのではないか。

 前掲書で高橋は、〈食〉に関して、こう述べたことがある。

「別にグルメじゃない。ただ、あるものを、こう、自分がいる状況のなかで、いかにおいしいものを作れるか」

 これを、俳優としての活動に置き換えると、〈自分がいる状況のなかで、いかにおかしいものを作れるか〉だったのではないか。

 大林映画に登場する高橋幸宏は、いつも、おかしくて物悲しさを感じさせてくれる存在だった。

参照

・『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』(立東舎)
・『フィルムメーカーズ[20] 大林宣彦』(宮帯出版社)

■放送情報
『NHK MUSIC SPECIAL 高橋幸宏 創造の軌跡』
NHK総合にて、2月16日(木) 22:00~22:45放送
再放送:2月21日(火)01:25~2:10 ※20日(月)深夜 NHK総合
出演:高橋幸宏ほか

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