『どうする家康』北川景子、お市としての圧倒的な美しさと強さ ムロツヨシの“怖さ”も
お市は元康との縁談に前向きだったが、元康のことを恋い慕うからこそ自ら身を引く。元康の言葉を遮って縁談を断るお市の姿は潔い。けれど、その目には涙が浮かんでいた。お市は悲しみを抑えながら、瀬名(有村架純)と子を思う元康に言葉を贈る。
「申したはずです。この世は力だと」
「欲しいものは、力で奪い取るのです」
結局のところ、信長もお市も元康を気にかけている。兄妹の会話は、彼ら特有の緊迫感があるがコミカルにも感じられる。兄は「どんな気分じゃ? 初めて男にそっぽを向かれた気持ちは」「望むのであれば、やつを殺してやってもよいぞ」と物騒だが、妹は「やっかいごとは白兎殿に押しつけなさるがよろしいかと」と返す。しかしお市の返答は勝ち気なだけではない。
「そして、大切になさいませ」
「兄上が心から信を置けるお方は、あの方お一人かもしれませぬから」
この台詞が心に響くのは、初登場にして強烈な印象を残した木下藤吉郎(ムロツヨシ)の存在があるからかもしれない。藤吉郎は「猿!」と呼ばれる世話係の下男だ。明るい笑顔を振りまきながら、早口でまくしたてる。元康や元康の家臣たちにも親しげな雰囲気で接するが、時折、ふっと見せる表情に底知れぬものが感じられる。
勝家から蹴飛ばされた藤吉郎は、心配する元康に「蹴飛ばしてぇ時に蹴飛ばしていただくのも猿めの喜びでごぜ〜ますれば」と返す。だが蹴られた直後、「いてっ!」と顔を上げたほんの一瞬の表情に笑顔はなく、暗い目をしていた。元康が信長と杯を交わしていたとき、藤吉郎は、元康が大高城を救ったことで信長が今川義元(野村萬斎)に勝利できたのだと解説する。このときも藤吉郎は明るく振る舞っているのだが、たった一言だけ、ドスの効いた声色を発した。信長の声色を真似たようにも見えるが、一瞬刺すような鋭さで響いたあの声色こそが、藤吉郎の本性だとしたら。そう思わせるようなゾッとする声色だった。藤吉郎を演じるムロのややオーバーなリアクションが、ふいに冷たい目を覗かせる藤吉郎の怖さを引き立たせており、織田信長とは異なる「怖さ」がある。ムロ演じる豊臣秀吉像が今から楽しみだ。
■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK