『大病院占拠』なぜ比嘉愛未に安心感を感じるのか? “母性的な優しさ”を得るまでの軌跡

比嘉愛未が“母性的な優しさ”を得るまで

 櫻井翔主演の日本テレビ系土曜ドラマ『大病院占拠』に出演中の比嘉愛未。比嘉は、櫻井演じる刑事・武蔵三郎の妻で心臓外科医の裕子を演じており、演技の安定感と綺麗な佇まいが印象的だ。そこで、今作において比嘉の演技に期待される点について紐解いてみたい。

 比嘉が演じる裕子は、界星堂病院に勤務する腕のある心臓外科医。警察官の妻でありつつ、人の生死にかかわる医師という職業でもあることから非常に度胸があり、正義感が強く、そしてリーダーシップのある有能な人物だ。第1話では、銃を向けられた状態でも手術の手を止めることなく、焦らず急いで終わらせる仕事ぶりや、鬼の人質となるも患者は解放してほしいと犯人たちと交渉するなど、自分の命よりもまず患者の命を大事にし、極限状態でも仕事をきっちりこなす冷静さと凄腕の技術を見せた。

 比嘉は凛とした佇まいが魅力な俳優で、これまでは真面目で自立した女性を多く演じてきた。『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズ(フジテレビ系)では、恋人を失った過去を乗り越え、信頼を集めるクールなフライトナースの冴島はるか役、『TWO WEEKS』(カンテレ・フジテレビ系)では白血病を患う子供の命を守るために必死にドナーを探すシングルマザーのすみれ役、『なつぞら』(NHK総合)では、北海道から上京した主人公を優しく迎え入れる東京の母親的存在のマダム役を演じていた。役柄に共通しているのは、背景は様々だがそれぞれ自立せざるを得ない理由があり、どこか虚勢を張っているように、その裏に見え隠れする寂しさを醸し出している点だ。

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 デビューして間もない頃はクールで頼れる人というイメージが際立っていた比嘉。しかし、歳を重ねて演技の引き出しを増やしていき、今では母親役に代表されるような、相手を包み込む優しさや強さを持った女性としてのイメージも定着した。そうした経歴からも、今回の凄腕の医師役には説得力があり、今作の裕子役は比嘉にとってハマり役だと言える。

 また今作では、裕子の夫・三郎がトラウマを抱えている。この設定で思い出すのが、2020年の『レンタルなんもしない人』(テレビ東京系)での妻の沙紀役だ。会社に押し潰され退職し、“レンタルなんもしない人”になった夫を、沙紀は菩薩のような笑顔で全てを受け入れる。本当は家計が苦しく裏では悩み苦しんでいるのだが、彼の生き方を肯定し、何も気を使わせない優しさは、比嘉の持つお姉さん的であり、優しい存在感があるからこそできるキャラクターだった。“優しいですよ”という演技ではなく、相手のことを心の底から受け入れる究極の“強さ”を、日常的な夫婦の関係として自然に演じていた。今作での三郎に対する母性的な視線にも似たようなものを感じる。一人娘を守る強さ、自分の命よりも患者の命を優先するところなど、決して相手を見捨てない性質を持っている役柄は比嘉の得意とするところだ。強い女性を演じるのが上手い俳優は数多いが、母性的な優しさを兼ね備えている俳優はそう多くはない。

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