比嘉愛未主演のドラマ版に受け継がれる原作の魂 『作りたい女と食べたい女』が描く“解放”

『つくたべ』が描く“当たり前”からの解放

 その選択が自分の意志によるものなのか、それとも何かや誰かにコントロールされた結果なのか。普段は意識していないことを、改めて考えたくなる漫画がある。“つくたべ”の愛称で知られる、ゆざきさかおみの『作りたい女と食べたい女』だ。

 もともとは作者が自身のTwitterやpixivの個人アカウントで発表していた作品だったが、多くの反響を受けて商業連載化。現在はKADOKAWAのウェブコミックサービス「Comic Walker」にて連載されており、3巻まで発売中の単行本はシリーズ累計35万部を誇る。そんな『つくたべ』が、比嘉愛未主演で実写ドラマ化される。NHKが2022年4月に新設した「夜ドラ」枠で、11月29日より放送開始となる。今回はドラマの放送を前に、原作の魅力を紹介したい(※以下、『作りたい女と食べたい女』原作コミックのネタバレを含みます)。

「私は女のひとを好きになっていいんだ。春日さんを好きになっていいんだ」

 これは原作の中で最も印象に残っている野本さんのモノローグだ。野本さんとは、本作の主人公。料理が大好きで、思いっきり大量の食事を作りたいと日々思いながらも少食で一人暮らしゆえに諦めていた。そんな野本さんの前に現れるのが、同じマンションに住む春日さんだ。彼女は食欲旺盛だが、自炊はあまりしない。まさしくタイトル通り、作りたい女と食べたい女である2人の交流が本作では描かれていく。

 少食で作ることが好きな野本さんと、大食いで食べることが好きな春日さん。同性でも一人ひとり違いがある。それは至極当然のことのように思えるが、意外と世間では「男性なら〜」「女性なら〜」といったように性別によるイメージで語られることが多い。例えば、春日さんが定食屋に訪れる場面では、店主が勝手にごはんの量を少なめに調整する。それは女性=少食という社会通念があるから。

 確かに数で見れば、大食いの女性よりも少食の女性の方が圧倒的に多いのかもしれない。だったら別に何も問題はない、春日さんのように大食いの女性はその都度、少食であることを否定すればいいじゃないか……と思う人もいるだろう。だけど、世間の当たり前が抑圧に変わることもあるのだ。

 実際に春日さんは保守的な家庭に生まれ、母親から父親と弟との食事に差をつけられて育った。お腹を空かせ、真夜中に一人で食べたトーストの美味しさと惨めさが春日さんの中に根強く残っている。女性なのに大食いなのは恥ずべきことという意識から、もっと食べたいという欲求を抑えている人もいるだろう。逆もまた然り。本当に少食なのに「それって“ふり”でしょ? ぶりっ子じゃん」と言われることも。そして、そこにはまた、女性は食事のときですら異性の目線を意識するものという間違った認識がある。

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