ガンダムを拡張した『水星の魔女』 『コードギアス』と重なる展開も?
ならば、右も左もわからない少女や少年たちが大人たちによって支配された社会に切り込んで、成功を掴む話かというとそう簡単には割り切らせない“含み”を、『水星の魔女』はそこかしこにちりばめて、作品が立つ土台そのものを未だにふわふわとしたものにしている。何しろスレッタというヒロインの存在自体がとことん謎なのだ。
放送に先駆けて配信されたアニメ本編の前日譚「PROLOGUE」には、ガンダムの開発に取り組むエルノラ・サマヤという女性がいて、その娘にエリクト・サマヤという赤髪で丸顔の少女がいることが示される。そして、『水星の魔女』にも、赤髪で丸顔の少女がスレッタという名で登場するが、これがエリクトの成長した姿かどうかをつかませず、むしろ徐々に違う存在だといった可能性を広げていく。そんなスレッタが敬愛する母親のプロスペラが、スレッタから受けるのと同じだけの愛をスレッタに注いでいるかというと、どうやら違うようだといった雰囲気もあらわにしていって、スレッタの前途を不安なものにする。
善良の権化のような母親が実は策謀家だったといった展開は、『水星の魔女』でシリーズ構成・脚本を手がけている大河内一楼が『コードギアス 反逆のルルーシュ』でも見せた手法だ。ルルーシュの母親で、凄腕の騎士として鳴らしブリタニア皇国の王妃となりながら、殺害されてしまったマリアンヌが、後半となる『コードギアス 反逆のルルーシュR2』で奔放過ぎる思惑を抱いていたことが分かって受けた衝撃たるや。ストーリー展開にもキャラクター設定にも、表向きとはまるで違ったものを繰り出して驚かせる手法が『水星の魔女』でも健在なら、ここまでに見えてきたことすら信じない方が良いかもしれない。
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UCとは違った世界線の上に立っている作品だと明言されたこと自体もフェイクかもしれず、どこかに“黒歴史”としてのUCにおけるモビルスーツ開発が挿入されるかもしれない。人間の秘められた能力を喰って成長するガンダムなど、まるで『機動戦士ガンダムNT』の「フェネクス」ではないか。
などといった、実際にはあり得ないだろう想像の余地まで与え、UC世界の拡張といったものではなく、かといってガンダムのネームバリューを活用して人間ドラマを見せようとしただけでもないところに、『水星の魔女』の新しさがある。人間ドラマとモビルスーツ開発という2本の柱を堂々と打ち立て、「ガンダム」というより「水星の魔女」というワールドを繰り広げた。そこに、旧来からのファンも、ガンプラ好きのメカマニアも、キャラクターの関係性に感情を駆動される層も巻き込んで、大いに盛り上がっている背景があるのかもしれない。
第1クールの最後で、ふわふわとした土台がガシッと固まったとしても、そう簡単に行く先を見通させないことは、これまでの展開で証明してきた。ならば続く第2クールの中でも、とてつもない裏切りによって足元をグチャグチャにしてくるかもしれない。そこへの期待も含めてこれからも、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は注目を浴び続けるだろう。
毀誉褒貶のすべては行き着く先を見てからでも遅くない。
参照
※. https://www.bandainamco.co.jp/files/ir/financialstatements/pdf/20221110_Complement.pdf
■放送情報
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
MBS/TBS系全国28局ネットにて、毎週日曜17:00〜放送中
企画・制作:サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
監督:小林寛
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン原案:モグモ
キャラクターデザイン:田頭真理恵、戸井田珠里、高谷浩利
メカニカルデザイン:JNTHED、海老川兼武、稲田航、形部一平、寺岡賢司、柳瀬敬之
音楽:大間々昂ほか
声の出演:市ノ瀬加那、Lynn、阿座上洋平、花江夏樹、古川 慎、宮本侑芽、富田美憂ほか
©創通・サンライズ・MBS
公式サイト:https://g-witch.net/
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