2022年の年間ベスト企画
成馬零一の「2022年 年間ベストドラマTOP10」 若者向けドラマと社会派ドラマが豊作の年に
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2022年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第10回の選者は、ドラマ評論家の成馬零一。(編集部)
1.『17才の帝国』(NHK総合)
2.『WOWOWオリジナルドラマ 早朝始発の殺風景』(WOWOW)
3.『silent』(フジテレビ系)
4.『トップギフト』(LINE NEWS VISION)
5.『あなたのブツが、ここに』(NHK総合)
6.『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)
7.『First Love 初恋』(Netflix)
8.『初恋の悪魔』(日本テレビ系)
9.『鎌倉殿の13人』(NHK総合)
10.『仮面ライダーBLACK SUN』(Prime Video)
今年は、若者向けドラマと社会派ドラマが豊作で、見応えのある作品が多かった。
1位の『17才の帝国』は、政治を題材にしたSFテイストの青春ドラマという、筆者がフィクションに求めている要素が全て詰まった豪華絢爛なドラマだった。「17才の少年がAIの力で地方都市の総理大臣になったら?」というSF的アイデアを用いた政治シミュレーションにはワクワクし、「サンセット・ジャパン」という言葉に象徴される、衰退していく日本の辛辣な描写には胸が痛んだ。AIによって運営される地方都市の映像が素晴らしく、アニメと実写の良いところを活かした映像表現に驚かされた。
何より素晴らしかったのが吉田玲子の脚本。全5話を一気に駆け抜けていく物語には疾走感があり、最終的に視聴者の心の中にいる「17才の時の自分」と対峙させる物語に圧倒された。初見では「尺が足りない」「もっと続きが観たい」と感じたが、後から振り返ると「これしかない」という絶妙な終わり方だったと思う。
2位の『早朝始発の殺風景』は、『17才の帝国』にも出演していた山田杏奈と望月歩も出演している高校生たちの群像劇。1話ごとに登場人物が切り替わる異色作で「青春はきっと、気まずさで出来た密室だ」というナレーションからもわかるように、ミステリーの手法で描かれた青春ドラマとなっている。高校生たちがお互いの考えを探り合うやりとりは、舞台劇を観ているようで新鮮だった。
3位の『silent』は、聴覚障害の男性と健聴者の女性のラブストーリー。広い意味で人と人のコミュニケーションのあり方について考えさせられる作品だったが、2021年のヤングシナリオ大賞を受賞した29歳の生方美久が脚本を執筆したオリジナルドラマだということに注目が集まった。新人脚本家に1クールのドラマのオリジナル脚本を書かせることで、時代の空気を拾い上げる感性の若さこそが日本のテレビドラマの魅力だった。近年はその機会が減っており、新人が出てこないことがテレビドラマ全体の活力を奪っていた。そんな中、本作は久しぶりに若い脚本家にしか書けない今の時代の空気を感じさせてくれる作品だった。本作の成功がきっかけで、若手脚本家がオリジナルドラマを書かせる機会が増えてほしい。