『17才の帝国』破格のSFドラマはいかにして作られたのか 訓覇圭×佐野亜裕美に聞く
NHKで土曜22時から放送されている『17才の帝国』は政治を題材にしたSF青春ドラマだ。
舞台は高齢化と経済の没落が進み、サンセット・ジャパンと呼ばれる202X年の日本。現状を打破するため、鷲田総理大臣(柄本明)は内閣官房副長官・平清志(星野源)に命じ、独立行政特区・青波市を若手閣僚と政治AI「ソロン」に運営させる「プロジェクト・ウーア」を立ち上げるのだが、そこで総理大臣に選ばれたのは17才の少年・真木亜蘭(神尾楓珠)だった。
本作は量子コンピュータが登場するSFドラマでありながら、すでに私たちの目前に広がる衰退していく日本の状況がとてもリアルに描かれている。同時に17才の少年を主人公にした青春ドラマとして大変魅力的で、プロジェクト・ウーアのように、たくさんの新しいことに挑戦した意欲作となっている。
全5話のうち、すでに3話まで放送され、5月28日に第4話が放送されるのだが、物語はいまだ謎に包まれており、先の予測は全く予想がつかない。
脚本は『けいおん!』、『ヴァイオレット・エヴァ-ガーデン』、『平家物語』などのアニメで知られる吉田玲子。制作統括はNHK連続テレビ小説『あまちゃん』やよるドラ『きれいのくに』を手掛けた訓覇圭。プロデューサーは『カルテット』(TBS系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)を手掛けたカンテレ(関西テレビ放送)の佐野亜裕美という異色のチーム編成。
このたび、リアルサウンド映画部では訓覇と佐野にWインタビューを行った。この破格のSFドラマはどのようにして作られたのか? そして2人が感じた吉田玲子の脚本の魅力と戸惑いとは?(成馬零一)
何を描いて何を描かないか
――企画の発端は、「NHKワールドJAPAN」で海外に放送・配信するドラマプロジェクトだったそうですね。
訓覇圭(以下、訓覇):配信が前提となっている時代に世界に向けてドラマを発信していきたいというコンセプトが決まった時に、NHKの内側に籠もっていても良いものは作れないと思っていたんですよ。そんな時にドラマ部長の加藤拓さんが佐野さんを推薦してくれて。最初はブレストだけだったのですが、せっかくのご縁なので、現場もやっていただくことになりました。
佐野亜裕美(以下、佐野):加藤拓さんとは以前からの知り合いで、TBSを辞めようと思った時に「これから私どうしたらいいですかね」と相談をしていて。フリーになる気はなかったんですが、どこに行くかを決めてない時期だったので、そこでうまくハマったという感じです。
――脚本が吉田玲子さんに決まった経緯について教えて下さい。
訓覇:コンセプトの段階から佐野さんに参加していただき、どういう切り口が可能かと模索していました。同時に海外のプロデューサーにリサーチをして「SF」と「ジャパンアニメ」に対する期待が高いとわかった時に、佐野さんから「吉田玲子さんはどうでしょう?」と推薦されて。
佐野:SFは世界観をゼロから作らなくてはいけないので、舞台やアニメといった違うジャンルの方に書いていただいた方が面白くなるのではないかと考えて候補者を選んでいました。同じ頃、吉田玲子さんが脚本を担当された『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』がNetflixで配信されていたので見直していて。「吉田さんがやってくれたら……」と思って、まずは一人で会いに行きました。
――本作はSFとしてはもちろん、政治ドラマとしても青春ドラマとしても楽しめる作品ですが、物語はどの要素から決まったのでしょうか?
佐野:「ゴールデンタイムのドラマでは主演になりにくい少年少女を主人公にしてSFドラマをやりたい」と吉田さんに話したら、「実はずっと考えていた企画がある」と言われて「17才の帝国」というタイトル、おおまかなログライン、真木亜蘭くんというキャラクターを提示していただいたんです。そこに企画開発をしていく中で考えたAIを使った話をやりたいと提案して「17才の少年がAIを用いて政治を行うという話はどうだろうか?」と、お互いの興味とリサーチした結果を持ち寄って話を作り上げていったという感じですね。
――時代設定が「202X年」ですが、フィクションとリアルのバランスが絶妙ですよね。
佐野:AIだけが進化した世界というのはフィクション性の高い設定で、そこはやはりSFですよね。初めは203X年の話にしようという案もありました。ですが、2035年ぐらいだとベースとなる世界があまりにも遠くになりすぎて。その2030年代を舞台に17才の少年が総理をやると、二段のジャンプになってしまうので視聴者の立場からすると遠すぎると思い、202X年にしました。
――10代の方々にも取材はされたのですか?
訓覇:吉田さんが書かれる10代の若さって、フィクションならではの輝いたイメージがあるので、逆に僕らは現在、政治に興味のある若い子が「どんな風に考えて、どんな言葉で喋っているのか?」を取材しました。「PoliPoli」という政治プラットホームを運営されている伊藤和真さんにお願いして、10代の方々に作品についてディスカッションしてもらい「自分ならどうする?」という話を自由に喋ってもらいました。そのやりとりを文字に起こして、そのエッセンスを吉田さんに投げていくという両面から固めていきました。
――NHKのドラマは取材の多さで有名ですが、今回も取材はたくさん行ったのでしょうか?
訓覇:もちろん取材はしましたが、今回はテーマが手強いため、取材しすぎるのは逆によくないと思いました。どこまで取材して、リアリズムに寄せていくかという塩梅が難しかったのですが、佐野さんがいてくれたおかげで縛られない作り方ができたと思いました。
佐野:ドローン配送や自動運転についても取材して、頑張って描こうと思っていたのですが、私たちがこのドラマでやろうとしていることではない部分に力がかかり過ぎると思って諦めました。未来の世界を実写で表現するのにものすごく手間とお金がかかってしまうので、現実的じゃないなと。
訓覇:何を描いて何を描かないかという佐野さんのジャッジは素晴らしかったです。202X年という少しだけ先の時代に、少しだけAIが進化している世界に設定したことで、フィクションとリアルのバランスが、すごく新鮮な日本のドラマに仕上がったと思います。