2022年の年間ベスト企画
成馬零一の「2022年 年間ベストドラマTOP10」 若者向けドラマと社会派ドラマが豊作の年に
4位の『トップギフト』はLINEで観ることができるスマホ対応型のドラマで「上下関係W(ワールド)」というコンテンツレーベルの一作。自らを天使と名乗る謎の男・天童(唐沢寿明)が少女のために事件を解決するオカルトドラマだが、注目すべきはスマホの縦長のモニターでドラマが展開されるということ。建物や空の高さが印象に残る空間表現や、人間の全身を捉えた映像には、映画の模倣ではない独自の映像感覚があって新鮮である。画角が変わるだけで「ドラマの印象はここまで変わるのか?」という新しい発見のある作品だった。
5位の『あなたのブツが、ここに』は、コロナによって仕事を失ったキャバ嬢のシングルマザーが運送会社で働く姿を描いたヒューマンドラマ。コロナ禍を描いたドラマの中では一番切実で「綺麗事だけでは終わらせたくない」という作り手の強い意思を感じた。何より、今のドラマで置き去りにされがちな庶民の日常を丁寧に描いていることに好感が持てた。
6位の『エルピス―希望、あるいは災い―』は『17才の帝国』と同じ佐野亜裕美によるプロデュース作品。冤罪を題材にしたミステリーを軸に2010年代という近過去の日本を振り返る社会派ドラマで、政権批判だけでなく、政権に忖度するテレビ局に対する批判の要素も大きかった。今後作られる社会派ドラマは本作が基準となるのではないかと思う。
7位の『First Love 初恋』は宇多田ヒカルのヒット曲から着想された恋愛ドラマ。Netflixらしい予算のかかった壮大なメロドラマだが、1998年から現在までの日本を描いたクロニクル(年代記)としても見応えがある。主演の満島ひかりの演技が破格で、彼女の表情の機微を追うだけでも観る価値あり。
8位の『初恋の悪魔』は考察ブームに対する批評性が光った刑事ドラマ。脚本家・坂元裕二ならではの先が読めないストーリーを、最後まで楽しんだ。
9位の『鎌倉殿の13人』は、脚本家・三谷幸喜の集大成であると同時に、新境地と言える大河ドラマ。史実研究をベースに作られたきめ細やかで一部の隙もない物語に、1年間圧倒された。
10位の『仮面ライダーBLACK SUN』は仮面ライダー50周年を記念して作られたドラマ。特撮ドラマ『仮面ライダーBLACK』のリメイクだが、監督の白石和彌は物語の背後に1972年のあさま山荘事件から2022年の安倍晋三元首相暗殺事件に至る戦後日本史を配置することで、異形ゆえに差別される怪人たちの物語として紡ぎ出した。歪な歴史観や政治的事件の切り取り方には苦言を呈したくなるが、無視することは絶対にできない2022年最大の問題作だ。