2022年の年間ベスト企画
杉本穂高の「2022年 年間ベストアニメTOP10」 新海誠のさらなる飛躍への期待も込めて
5位:『アンネ・フランクと旅する日記』
イマジナリーフレンドの具現化という物語が、アニメーションという手法に絶妙にマッチしている。アンネの日記の空想の友達が具現化して、アンネの代わりに現代を冒険する。人は滅んでも、人が残した文学は滅びない。それが、人類が創作しつづける理由なのだ。大変壮大な作品である。
4位:『犬王』
歴史とは何かが詰まっている。この作品はフィクションだが歴史の真実を射抜いている。私たちが知るのは過去のほんの一部にすぎない。室町時代にロックはなかったかもしれない、しかし、絶対になかったとどうして言い切れるだろう。未来はあらゆる可能性に開かれているが、実は過去もまたあらゆる可能性に開かれているのではないか。これから新しい発見があるたび、歴史の教科書は書き換えられている。歴史を想うには想像力が大事なのだとこの上なく力強く伝えてくれる作品だ。
3位:『FLEE フリー』
別媒体でヨナス・ポヘール・ラスムセン監督にインタビューする機会があった。監督は、主人公のアミンにアフガニスタンを訪れる案を持ちかけたそうだ。しかし、彼は「自分の知っているアフガニスタンはもう記憶の中にしか存在しない、故郷のことは美しい思い出のまま留めておきたい」と言って断ったそうだ。
その、彼の記憶の中だけの美しい時代のアフガニスタンの姿を、アニメーションだったら人々と共有できると監督は考えた。彼の難民体験もまた多くの人々が共有するべきだ。今年、国連は難民の数が一億人を超えたと発表した。1人の難民の記憶を描いた本作の向こう側には1億人の難民がいる。
2位:『THE FIRST SLAM DUNK』
驚異的な運動描写だけで心を鷲掴みにされた。というか泣いた。本作は「時間芸術」として大変に優れている。試合のシーンは本物の試合を見ている感覚にさせ、過去のエピソードには、長い人生の時間が圧縮され、ワンプレーの背後に膨大な人生の積み重ねがあるのだということを、説得力を持って描いていた。
同時に、映画は「空間芸術」でもある。3DCGによるバスケットコート空間に躍動するプレイヤーたちは本当に生きているかのようだった。あまりの迫真さに映画館が試合会場のようだった。優れた映画はスクリーンのこちら側の空間をも変えてしまう力がある。
『THE FIRST SLAM DUNK』は3DCGアニメのメルクマールに 恐るべき“心理的な時間感覚”
映画『THE FIRST SLAM DUNK』のオープニングシークエンスは、同作のコンセプトをわかりやすく表している。 サラ…
1位:『すずめの戸締まり』
『THE FIRST SLAM DUNK』が1位でも良かったのだけど、オリジナル企画の作品を後押したいという気持ちもあったので、こちらを1位にした。
筆者がなにより素晴らしいと思ったのは、本作が「死者の声を聞く」姿勢を持っていたことだ。常世は常にうつし世のすぐ近くにあって、死者は生者とともに生きている。東北の震災を描くためには死者の声を聞かねばならない。死者の声を想像しなくてはならない。
たくさんの「いってきます」の声は、死者の声だ。常世を開いた主人公の少女は、死が間近にあること、死者がすぐ近くに存在していることを肌身で感じている。
そして、風景の美しさについて自己言及的なシーンがあるのも印象的だった。芹澤のセリフのことだが、あれは単純に否定しきれるものではない。東京の非当事者だからあんなのんきなことが言えるのだと言うのは簡単だが、津波で流されてしまった故郷を見て不意に美しさを感じてしまった人も実際にいる(とあるドキュメンタリー作家の証言より)。そう感じてしまうことは簡単に糾弾できない。否定したい気持ちをぐっと抑えたすずめの態度を、あのような抑制した表現にした脚本を称賛したい。
『すずめの戸締まり』に新海誠が込めた切実な思い “生きる意味”の問いに応える一作に
人はいつか死ぬ。それだけは確実に決まっている。 そして、この国だっていつか終わる。終わりがあると知っていて、人はそのことを見…
今年もたくさんの素晴らしい作品に巡り会えた。来年も素晴らしい出会いがあることを期待している。
■公開情報
『すずめの戸締まり』
全国公開中
原作・脚本・監督:新海誠
出演:原菜乃華、松村北斗、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉、花瀬琴音、花澤香菜、松本白鸚
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一
美術監督:丹治匠
音楽:RADWIMPS、陣内一真
主題歌:「すずめ feat.十明」RADWIMPS
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
制作プロデュース:STORY inc.
配給:東宝
©︎2022「すずめの戸締まり」製作委員会
公式サイト:https://suzume-tojimari-movie.jp/
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