『チェンソーマン』デンジが立ち止まって考える死生観 アキが岸辺の“100点”ではない理由
嘘みたいに目まぐるしい展開が終わり、ようやく訪れた静けさは寂しすぎるくらいのものだった。『チェンソーマン』第10話は、サムライソード襲撃によるアキとデンジの精神的アフターマスについて描く。
『チェンソーマン』第10話「もっとボロボロ」予告&先行カット デンジの“先生”岸辺が登場
テレビ東京系ほかにて放送中のTVアニメ『チェンソーマン』第10話の予告映像と先行カットが公開された。 『少年ジャンプ+…
満を持して、原作ファンからも人気の高い岸辺が本格登場。壊滅した公安対魔特異4課は他の課と合併されることになったが、それ以前に強敵を目の前にして無力だった彼らを特訓する必要があった。マキマはその師匠として、デンジとパワーに岸辺を紹介する。このとき、岸辺が二人に問いかけた質問は、今回の前半で丁寧に描かれたアキの病室のシーンと呼応する。
「仲間が死んでどう思った?」
「敵に復讐したいか?」
「お前たちは人と悪魔どっちの味方だ?」
デンジとパワーは仲間が死んだことを特に何とも思わず、死んだという事実だけを受け止める。仲間を殺した相手に復讐したいと、感情的になることもない。悪魔とか人とか、関係なく自分が信じられると感じた相手を信じる。一方、アキは姫野が死んですごく悲しいし、家族や彼女を殺した相手がまだ生きているから復讐のために公安をやめない。そして第2話の時点では完全に人の味方だった。今はパワーやデンジと暮らし始めたことで、最後の質問に関しては少し考えそうな気もするが、おそらく彼は人を選ぶだろう。
アキはデンジやパワーと違って、モラルや常識、誰かに対する愛情を持っている。永遠の悪魔編で姫野が「アキ君は死ぬ」と考えていたのは、そういう意味で彼が“普通の人”だからだ。彼女のかつてのバディたちと同じ。真面目な人ほど、素直で単純だから悪魔もどうしたらそういう相手を苦しめられるかわかってしまう。一方で、デンジやパワーのように何を考えているのか一切わかりようのない相手は悪魔も怖いというのは、これまでのコウモリや永遠の悪魔との戦いでわかったことだ。今回、病室でアキが生存者について聞いた瞬間、目が動揺したのも、タバコを吸おうとして姫野を思い出し、悔しくて泣いたのも、私たちは“理解できる”。しかし、残念ながらデビルハンターに向いているのは“理解できない”人間の方なのだ。
そこで対比として描かれたのが、デンジの死生観。彼が、自分がアキと違ってなぜ泣かないのかを考え込むシーンはとてもよかった。私たちは作品をテレビの枠から俯瞰して観ているから、デンジが泣けない理由も理解できる。彼に、アキのようなごく普通な感覚やモラルを教えてもらったり、身につけられたりする幼少期がなかったからだ。多くの“当たり前”がデンジには欠けていた。だから今、人が持っていて自分が持っていないパズルのピースをひとつひとつ拾って、それについて考えられている彼の姿は見ていて何だか安心するし、良かったなと思える。残酷な事実だが、知っている人が死んだって泣かないことだってある。死は平等に訪れるのに、平等に捉えることができない。そういうドライな真実を、原作者の藤本タツキは本作の随所で描いている。