『チェンソーマン』“実写的”映像表現の奥深さ 美しさが滲む、暴力&妖艶な描写の数々

 「この秋のテレビアニメで、最大の話題作は?」と問われたら『チェンソーマン』の名前を出す方も多いのではないか。放送前から『週刊少年ジャンプ』で連載されていた人気作のアニメ化ということもあり、ファンの高い熱量を感じる。そして放送が始まると、その映像表現に圧倒される。そのキーワードとなるのが「実写的な映像表現」だ。

『チェンソーマン』はなぜ“実写映画的”なアニメになったのか 脚本・瀬古浩司インタビュー

藤本タツキ原作のTVアニメ『チェンソーマン』が放送スタートした。  熱狂的なファンを獲得している同作のアニメ制作を手掛けるのは…

 「実写的な映像表現」という言葉は、『チェンソーマン』の制作者インタビューなどで多く目にする。中山竜監督や、シリーズ構成を手がける瀬古浩司からも、いわゆるアニメ的な映像を目指すのではなく、実写的な映像表現を模索している、という発言が各種インタビューで散見される。それはOPが最も顕著なのだが、映画好きの原作者・藤本タツキの意図に沿うように、様々な映画のオマージュが込められていることも話題となった。(※)

 では、この「実写的」という言葉は一体何か? 近年のアニメ表現は、この「実写的」あるいは「写実的」という言葉に、いかに向かい合うかを問う作品が多くなっている。この2つの言葉は文字を入れ替えただけのようでありながら、意味合いは異なっている。

 例えば写実的なアニメ表現といえば、リアルな背景描写を連想する。その代表として新海誠や京都アニメーションの名前があがるだろう。新海の場合は実際にロケハンした現地の背景を参考にしながら背景美術を作り上げ、そこに撮影技術を盛り込むことによって、現実に即しながらも現実よりも美しい映像を作り出してきた。こちらは現実に即した「写実的」な映像美と言えるだろう。

 一方でアニメ制作スタジオのCLOVER WORKSは、写実的な一面もありながら「実写的」な映像を模索しているスタジオの1つだと言える。『ワンダーエッグ・プライオリティ』では、実写ドラマを手掛けてきた野島伸司を脚本・原案に迎えているが、その絵作りにおいても実写的な方向性を模索していた。この場合の実写的とは、野島らしく実写の邦画ドラマのような映像表現だ。

 この実写的な映像とはどういうものか。鑑賞者によって異なる様々な定義があり、言葉で説明するのが難しいが、本稿では、「音楽が少なく、会話と会話の間などをしっかりと保たせる、あるいは覗き込むようなカメラワークによる映像」を、実写的な映像作りとしたい。アニメの場合は各カット単位でアニメーターが原画を担当するケースが多く、どうしてもカット数が多くなってしまう。日常的なシーンでは、1つのカットを長くするなどの工夫によって、実写的な映像と感じることができるようだ。

『チェンソーマン』ノンクレジットオープニング / CHAINSAW MAN Opening│米津玄師 「KICK BACK」

 『チェンソーマン』もまた、実写的な映像表現と言えるだろう。背景描写などは現代日本の都会であり、おそらく東京、あるいはその近郊が舞台と推察できるが、どこか特定の場所ではない。つまり架空の東京、あるいは都会のイメージが採用されており、写実性があるとは言い難い。つまり現実をトレースしたような作品ではない、ということだ。

 一方で、その映像表現からは、まるで実写映画を観ているかのような感覚を受ける。そこでは、OPも含めて洋画らしさを感じられるかもしれない。しかし『チェンソーマン』の場合は、単に洋画らしい、あるいは実写的という言葉の中に、さらにもう1つ階層があるように感じられる。

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