『エルピス』がドキュメンタリーではない理由 長澤まさみと鈴木亮平の相克する関係
本作が構想から6年を経てようやく日の目を見た事実が示唆するように、本作を世に送り出すことと劇中で語られる冤罪事件の報道は二重写しの関係にある。政治・行政、マスメディアへの批評的な視点があらかじめ内蔵されているのが『エルピス』という作品で、現実の似姿としてのドラマを通して私たちに訴えかけている。
真実は時に残酷だ。言葉にしない側に真実が含まれており、言わないことで呪いをかける斎藤はまた恵那にとっても都合の良い存在だった。本当は裏切り合っていると感づくことと、生き物として求め合うことは両立しうる。しかし、強い光でいったん真実が明らかになれば「相克の関係」にある2人が元の関係に戻ることはできない。男女の関係に重ねた恵那と斎藤の間の相克が、人間性あるいは主義主張に根差すものかは議論の余地があるが、冤罪事件というパンドラの箱を開けたことで降りかかる厄災は、関わった人間の運命を変えてしまう。
『フライデーボンボン』の後処理にはマスメディアのしたたかさが表れていた。「世間を騒がせたことのけじめ」と言うが、表向き打ち切りで看板をすげ変えて再始動。メインMCとスタッフは村井と拓朗を除いて残留し、波風の立たない体制に移行する。「組織における筋」は誰の何に対する筋なのだろう。こんな時切られるのはいつも末端で、アシスタントとボンボンガールは全員交代となった。意外だったのは恵那の『ニュース8』返り咲きだが、「視聴者対応」で権力と闘うイメージすら消費される様子に、あきれを通り越して吐き気を覚えた。
■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv