乃木坂46 久保史緒里が語る、芝居への情熱 「人間として一番“生きてる”と実感する」
2022年、乃木坂46の久保史緒里は大きな飛躍を遂げた。『乃木坂46のオールナイトニッポン』の2代目パーソナリティに就任し、『桜文』で舞台主演、そして11月11日から公開中の映画『左様なら今晩は』で、映画初出演にして初主演を飾っている。
初主演映画『左様なら今晩は』では、生きている間に恋愛を経験しなかったウブでピュアな幽霊・愛助を演じる久保。萩原利久演じる陽平との関わりを通して愛助の振る舞いは変化していくが、それを見事に演じていた彼女は一体どのような役作りをしたのだろうか。取材を通して見えたのは、自分自身に一切の妥協を許さないストイックな一面だった。
乃木坂46も転換期を迎え、グループを牽引する存在として名実ともに乃木坂46を背負って立つ久保に、俳優としての覚悟から、乃木坂の後輩たちに対して今思うことを聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】
「もっと愛助として生きたかった」
ーー今回映画に出演が決まり、さらに主演ということを聞いたとき、どのように感じましたか?
久保史緒里(以下、久保):乃木坂46には映画に出てるメンバーが多くて、「いつかは自分も映画に出たい」と思っていたので嬉しかったです。
ーー嬉しさが先にきたんですね。
久保:いえ、驚きが先にきました(笑)。「私ですか? 本当に私ですか?」と聞き返したことを覚えています。
ーー久保さんといえば舞台の印象が強いのですが、今回の撮影の中で映画ならではの難しさを感じたことはありますか?
久保:舞台は長い時間をかけて一緒に考えながら役への理解を深めていく作業でした。一方で、映画は自分である程度イメージを固めた上で、それをカメラの前に立ちながら演じていく、という作業でした。それが初めての経験だったのでとても難しかったです。愛助というキャラクターをどういう人物像にしたらいいかは、現場に入ってからも悩みました。
ーー久保さんが考えた愛助像はどういうものだったんですか?
久保:愛助は思ったことや感情に忠実に生きている子なので、普通に生きている女の子だったら言えないような言葉も、平然と言えてしまう。なので、“甘く”なりすぎないようにしたいと思っていました。
ーー“強さ”のような表現でしょうか?
久保:どちらかといえば、愛助を女の子らしく見せようとはしなかった、という感じです。最初に台本を読んだときには、すごくかわいらしいセリフがたくさんあるなと感じました。ただそれは、彼女は自分が“死んでいる”という事実があるから平然として言えるのであって、普通の女の子らしく言ってしまうと、彼女が幽霊である意味がなくなってしまうと思いました。どこまでいっても幽霊と人間の話というのは変わらない事実なので。
ーー愛助の演技にはそういう意図があったんですね。一方で、久保さんがとても自然に演技されていたのが印象的だったのですが、愛助と久保さん自身は似ている部分はあると思いますか?
久保:いえ、自分の感情に素直に行動できるのはむしろ私にない部分で、彼女はかっこいいなと思ってました。それで陽さん(陽平)に影響を受けて、どんどん人間らしくなっていくので。愛助が生きていたときに経験できなかったことを陽さんは経験させてくれていて、それによって彼女がどんどん女の子になっていくのを見せられたらいいなと思っていました。
ーー愛助が陽平に影響を受けて変わっていく表現がとても素敵だなと感じていました。
久保:ありがとうございます。それは自分の中で考えながらやっていた部分でもありましたし、萩原利久さんに引っ張り出してもらった部分でもあります。
ーーどういうお話をされたんですか?
久保:割と役のことを話すというのはあまりなくて。ただ、私がすごく人見知りで現場でコミュニケーションが取れていないときに話しかけてくださったのはありがたかったですし、その中で陽平と愛助の関係性を作り上げていけたと思っています。
ーー高橋名月監督とは話しましたか?
久保:たくさんお話をさせていただきました。世代も近かったので、割と自分から「こうですか?」と話し合ったりしていました。高橋監督がよく「愛助が愛くるしい」とか、「かわいくて仕方ない。見るたびに泣きそうになる」と言ってたんです。私も、そういうふうに愛助が映るのが、作品を観てくださる方にとってとても大事な要素なんだろうなと感じていました。私は、陽さんの「なんで死んでるの?」というセリフがすごく好きなんです。あのセリフを引き出すために愛助がどんな存在でいなければいけないのか。とてもヒントをいただいたと思っています。
ーー完成した作品を観られて、何を思いましたか?
久保:自分の粗探しじゃないですけど、ところどころの演技が悔しいな、という見方をしてしまいました。自分が映ってる映画を観るのは初めてだったので、客観的に観られなくて。共演の方々の演技を見ても、自分はまだまだ足りないなと改めて痛感しました。
ーー反省点がたくさん出てきたんですね。
久保:今回の『左様なら今晩は』では、ストイックさが足りないなと思いました。もちろん、撮影期間が短かったこともあるのですが、もっと愛助に寄り添いたかったです。なんて言うか、幽霊なんですけど、もっと愛助として生きたかったなと思ってしまって。この現場が終わるのがすごく寂しかったです。
俳優としての覚悟と、先輩・生田絵梨花からの影響
ーー久保さんは映画や舞台、ラジオから『ラヴィット!』(TBS系)のシーズンレギュラーまで、今年は特にお仕事の幅が広がっていると感じます。デビュー時から様々なお仕事をされてきたと思いますが、いま一番頑張りたいと思っている分野はなんですか?
久保:そうですね……。正直、お芝居をしている時間が一番苦しいんですよ。演じている時間や、セリフを覚えてるとき、役と向き合ってる時間はすごく苦しくて。なのに、なんでお芝居の仕事が一番やりたくて仕方ないのかというと、その苦しい思いをしないと得られない“気持ち”がやっぱりあるんです。私って本当に欲のない人間なのですが、お芝居をしてるときは「もっとこうしたかった」とか、「もっと映画に出たい」という気持ちが生まれるのです。私が、人間として一番「生きてるな」と実感するときってやはり欲があるときなんです。なので、お芝居は苦しいと感じながらも「一番やりたい」と思うのだと感じています。
ーー素敵なお話ですね。でも、どうして欲が出るんですかね?
久保:もともと、自分の性格や容姿があまり好きじゃなかったので、「こうなりたい」みたいな欲はありました。今は自分のことは嫌いではないのですが、満足は全くしていないんです。だから、「ああなりたい、こうなりたい」というのが未だにいっぱいあるんです。お芝居も、全く満足してないから欲ばかり出てくるのだと思います。お芝居をしているときは「意外と欲深い人間なのかも」と思います(笑)。
ーーストイックさが垣間見えるお話ですね。忙しい日々を送られていると思うのですが、息抜きとかはどうされてますか?
久保:息抜きか……。やっぱり私には野球しかないので。野球を見る時間だけは何も考えてないです(笑)。ただ、私は忙しい方が安定してるんですよね。休みがあればあるほど、自分の人生を考え過ぎてしまって、それこそ“欲”が湧く時間がやってくるんですよ。「これやってみたいな」とか、「あそこに行きたいな」とか。そういうことって良いことだと思います。でも、アイドルは絶対的にやれる時間が限られているので、この限られた時間を1秒も無駄にしたくないと私は思うんです。アイドルでいられる間に、アイドルとしてできる最大限のことをしたいと考えているので、休みたいとかは正直あまり思わないです。
ーーそういう考え方をされるのは、昨年に乃木坂46を卒業された生田絵梨花さんの影響が大きいのかなと感じました。
久保:大きいと思います。生田さんのすごいところって、自分がやりたいとか好きだと思ったことに対してのストイックさなんです。だけど、私って自分がやりたいとか好きなことに気づくのにすごく時間がかかるんです。生田さんは「自分がこれをやりたいから頑張れる」というタイプなのに対して、私は「お仕事をいただいたから、挑戦してみたい」から入ることが多くて。まだやりたいことの輪郭がぼんやりしてるんです。もちろんそれは自分が決めることだとは思うのですが、少しでも近づくために今はただひたすら頑張っています。
ーー先輩が通ってきた道を辿っている感じがしますね
久保:あと、いつも楽しそうにされているのが素敵だなと思います。何事も楽しまないとやってる意味がないので。
ーー久保さんはそういうところはどうですか?
久保:実はそこが私のネックなところで(笑)。“楽しい”と変換されるまでにものすごく時間がかかるんです。苦しみの先にそれを得られると考えてる人間なので(笑)。あまり楽しいという感情から入ることができなくて、もったいないなと思ってるんです。それこそ、本作の撮影を通して、萩原さんは“楽しい”をとても大事にされてる方だなと何回も思いました。私はそういうふうにはいられないので、隣で見ていて尊敬の眼差しでした。
ーーお話を聞いていると達成感で楽しさを感じられる方なんだなと思います。達成感を感じたのはどのタイミングでしたか?
久保:完成した映画を観たときです。撮影終わりのタイミングは寂しい気持ちや、「もっとできたな」という感情になってしまったので。ようやく公開が近づいてきて、やってたんだなと思えました。本作を観た方がどういう反応をされるのか、ドキドキです。