『祈りのカルテ』が産婦人科ドラマに仕掛けた工夫 複数人の物語を描いたことで得た成果

『祈りのカルテ』が産婦人科に仕掛けた工夫

 毎話異なる科を渡り歩く『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』(日本テレビ系)。10月22日に放送された第3話の舞台となるのは「産婦人科」。そこで良太(玉森裕太)の指導医となるのは、精神科の立石(松雪泰子)が言うところによれば“北関東一の最強レディース”だった木佐貫(斉藤由貴)。なかなかパンチの強いこのキャラクター性と、それを演じる斉藤由貴のイメージが絶妙にハマっており、やはりこのドラマは研修医と患者の物語に1話ごとのエピソードを委ねつつも、大枠の骨子は研修医と指導医の物語に託しているのだと強く感じられる。

 産婦人科の想像以上にハードな仕事にあくせくしながらも、新しい命が生まれる瞬間に立ち会うことに喜びを見出す良太。そんなある時、切迫早産で運び込まれてきた患者・小野文香(矢田亜希子)を担当することになる。木佐貫と共に病状の説明をしようとしていた矢先、病室に駆け込んできたのは文香の元夫である本郷正和(森田甘路)。さらに文香と現在交際中だと言う岡田俊一(内藤秀一郎)という男性も現れ、病室は混沌とした状態に。しかも文香はこれまで通っていた産婦人科について教えようとせず、木佐貫が改めて初期検査を提案するも拒絶。そして、文香が帝王切開での出産を求めてくるのである。

 序盤のくだりでまず頭に浮かんだのは、ちょうど先日ようやく見直されることが報じられた民法第772条の嫡出推定である。簡潔に言えば離婚後300日以内に生まれた子どもは元夫の子供であると推定されるものであり、それが作られた124年前の事情は正確には分かりかねるが、少なくとも現代とは乖離した考え方であり、近年様々な問題をはらんできたのである。これを劇中に当てはめてみると、文香と正和の離婚は 4カ月前。現行法では自ずと正和が父親であるとされるといったところだ。とはいえ今回のこのエピソードでは、そこまでタイムリーな方向には振らず、もっとシンプルに出産を取り巻く人間ドラマへと落とし込まれていく。

 不妊治療を受けてきた夫婦がようやく待望の子供を授かったものの流産してしまう。その後ふたたび懐胎するのだが、文香に子宮頸がんが見つかる。文香は正和のことを思うあまりに、自分自身と胎児の命に関わる病気にかかったことを隠して離婚を選ぶ。たまたま仕事のクライアントであった岡田に父親のふりを依頼したという流れだ。いかんせん産婦人科を扱ったドラマはこれまでにも多々あり、とりわけ近年でも『コウノドリ』(TBS系)のような(子宮頸がんの妊婦を描いたエピソードもあったはずだ)かなり緻密に現代の出産を取り巻く事情を描いた前例がある以上、差異化を図るのは決して容易ではない。

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