『ジャパニーズスタイル』が挑む“本格シットコム”とは 日本での発展の歴史を徹底解説

『ジャパニーズスタイル』シットコム解説

 2022年秋ドラマの中で、テレビ朝日系の土曜ナイトドラマ『ジャパニーズスタイル』が放送前から話題となっている。

 ドラマファンの間での一番の話題は、主演の仲野太賀×脚本の金子茂樹という『コントが始まる』(2021年/日本テレビ系)コンビの再タッグだが、他にも、映画監督の深川栄洋が監督を務めること、芸人のKAZMA(しずる)、ミュージシャンの石崎ひゅーいなど異色の出演陣も注目を集めている。

 そして今回、文字面では見たことがあるが、なかなか馴染みのないワードがドラマの紹介文で踊っていた。

“本格シットコム”。

 古くからのドラマ好きには馴染みがあるであろう、この「シットコム」。2000年代以降生まれの若い人は、あまりよく分からない人も多いのではないだろうか。

 「シットコム」とは、「シチュエーション・コメディ(situation comedy)」の略で、直接的な意味としては、状況設定(シチュエーション)が笑いの要素の軸となっている喜劇作品(コメディ)のことを指す。コメディジャンルの一つで、激しい動きのドタバタを楽しむ「スラップスティック・コメディ」とは対極的な作風と言えるだろう。

 シットコムのルールが厳重に決められている訳ではないが、シットコムと称される作品の傾向としては「ドラマ内の主な舞台が特定の室内に固定されている(ロケをしない)」「登場人物が一定である(時にゲスト主演者も)」「1話完結(時に複数話を跨ぐことも)」「ほぼ一発撮り(カット割り以外の編集なし)」などが挙げられるだろうか。

 多くの古くからのドラマ好きの中では、シットコムと聴いて浮かぶのは、『アイ・ラブ・ルーシー』(1951年〜1957年)や『奥さまは魔女』(1964年〜1972年)、そして、1990年代の『チアーズ』(1982年〜1993年)、『フルハウス』(1987年〜1995年)、『そりゃないぜ!? フレイジャー』(1993年〜2004年)、『フレンズ』(1994年〜2004年)などのアメリカドラマだろうか。ちなみに、『アイ・ラブ・ルーシー』の監督を務めたウィリアム・アッシャーは「シットコムを発明した男」とも呼ばれており、毎回、同じセットとキャストで、時にゲストが登場するというその後のシットコムのスタイルを確立したとも言われている。

 この『アイ・ラブ・ルーシー』は、同ドラマ制作の舞台裏を描いた映画『愛すべき夫妻の秘密』が、Amazonスタジオ製作でアーロン・ソーキン監督・脚本、ニコール・キッドマンとハビエル・バルデム主演で2021年に配信されたことでも記憶に新しい。

 そして2021年には、世界的な人気コンテンツとなったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)では初めてのシットコムとして、ドラマ『ワンダヴィジョン』もディズニープラスで配信された。本作で初めてシットコムという形式を知った人も少なくないだろう。50年代から90年代まで、それぞれの年代のテイストを各話で取り入れつつ、最後には、その全ての構造自体に意味があったという作り込み方には驚き、現代におけるシットコム表現の可能性も強く感じた一作であった。

 日本でも数多くのシットコムの条件を満たすようなドラマが作られてきた。古くは、『アイ・ラブ・ルーシー』を手本にしたとされるフランキー堺主演で渥美清も出演していた『わが輩ははなばな氏』(1956年〜1959年/ラジオ東京テレビ・現TBS系)があり、その後も、ミヤコ蝶々主演の『スチャラカ社員』(1961年〜1967年/TBS系)や藤田まこと主演の『てなもんや三度笠』(1962年〜1968年/TBS系)などが放送されている。ただ、三谷幸喜が脚本・演出を手掛けた香取慎吾主演の『HR』(2002年〜2003年/フジテレビ系)が「日本初の本格的シットコム」を謳って放送されているので、その明確な定義は難しい。(三谷幸喜自身は、観客の笑い声が入っていることをシットコムの条件と考えていたようだ)とは言え、シットコム的なドラマが日本でも作られてきたのは事実で、『HR』より前に三谷幸喜が脚本に携わった『やっぱり猫が好き』(1988年〜1991年/フジテレビ系)や『子供、ほしいね』(1990年〜1991年/フジテレビ系)もシットコムと言って差し支えないだろう。

 個人的に、シットコムとして強く印象に残っているのは、コントユニット・ジョビジョバのメンバーが総出演した深夜ドラマ『さるしばい』(1998年/フジテレビ系)だ。今や売れっ子脚本家となった宮藤官九郎も脚本に携わった本作では、とあるアクションクラブに集まる6人の人間模様が描かれた。その後もジョビジョバは『ロクタロー』(1998年〜1999年/フジテレビ系)などの番組で、シットコムとコントの境界を模索し続けていたように思える。

 他にも木村拓哉が主演した『TV's HIGH』(2000年〜2001年/フジテレビ系)もシットコムと言っていいかもしれない。こちらも宮藤官九郎の他、三木聡監督が作・構成として携わっており、コメディドラマとしてのストーリーラインはありつつも、元東京都知事の青島幸男や元総理大臣の村山富市、宇多田ヒカルなどがゲストとして登場する度に話を逸脱していくバラエティ番組のような展開も魅力的だった。

 このようなシットコムとコント番組やバラエティ番組の境界を行くような番組は、その後も、ダウンタウン・松本人志やウッチャンナンチャン・内村光良、元フジテレビの名物プロデューサー片岡飛鳥らの企画によって、多くの場合は芸人が出演する形で大量に生み出されてきたが、いずれも、単独の番組として一つのストーリーを描いた番組ではないという点で、舞台も登場人物も特定の場所や人に限られないという点で、シットコムとは言いにくいだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる