『silent』は『オレンジデイズ』を彷彿とさせる? 目黒蓮が向き合った中途失聴者の苦しみ

『silent』が描く中途失聴者の苦しみ

 楽しそうにケラケラ笑い、いつもくだらないことを話しすぎる紬の声が聞こえなくなることも、今までと同じようには会話できなくなることも、いずれ一緒に音楽を聴けなくなることも全てが想の心を塞ぎ込ませる。それを自分ができなくなることは、翻ってつまり紬と一緒にその時間を持てなくなることであり、紬からもその楽しみを奪ってしまうことになると感じ、それこそが彼にとって何より辛く不甲斐なく苦しかったのだろう。

 紬と想が最後に会った場所となる公園で、彼はもうあと何回聞けるかわからない自分の名前を呼ぶ愛おしい紬の声を記憶しておきたいと、自分の名前を呼んでほしいと頼む。もちろんそんな想の気持ちを知る由もない紬は、いつも通りに「佐倉くん」と呼びかけた後、彼のそのお願いの意図を「苗字呼びではなく、名前呼びに切り替えてほしい」と捉え違えて、恥ずかしそうにその名前を呼び直す。彼女の、何の一点の曇りもなく、自分たちの“これから”を見ているその眼差しを想は受け止められなかったのだろう。

 自身の聴力がなくなる、避けられぬ“その日”を意識している自分と、2人の未来だけを真っ直ぐに見つめて今を思う存分楽しむ紬。もしかすると、公園で会った時には想は紬との関係性も、終わりの時もまだ決めかねていたかもしれないが、あの瞬間、自身と紬の対比に心を決めたのだろう。そして、紬が何も疑うことなく嬉しそうに自分との新たな“思い出”に向かって無防備に手を差し出す姿を目の当たりにし、もうそれを叶えられなくなる自分のことが受け入れられなかったのだろう。何より好きな紬の笑顔をもう自分は守ることも、新たにもたらすこともできないのだと。真実を知っていて“あったものがどんどんなくなる”ことを日々実感せざるを得ない想と、何も知らされず急に“あったものがなくなった”紬のどちらが切なく苦しいのだろう。

 中途難聴・失聴者の聴力が徐々になくなる感覚について説明する際に、手話講師の春尾(風間俊介)は、それを大失恋した相手への感情に例えた。「初めから出会わなければ良かった。この人に出会わなければこんなに悲しい思いをしなくて済んだのに」と。だが、何の前触れもなく突然、一方的に別れを切り出された紬は、時を経て、今の想の状況も知った上で、「好きになれて良かったと思います、思いたいです」と返していた。そんな彼女との再会を通して想も“あったものがなくなった”ことで自ら手放してしまったものたちと、“あったものがなくなった”からこそ望んでいなくとも出会えた新たな世界で、紬と、そして自分と出会い直し、またいつか「お前、うるさい」と微笑みながら彼女に突っ込んでほしいと、そんなことを願わずにはいられない。

■放送情報
木曜劇場『silent』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、桜田ひより、板垣李光人、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/silent/
公式Twitter:https://twitter.com/silent_fujitv
公式Instagram:https://www.instagram.com/silent_fujitv/

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