『silent』は『オレンジデイズ』を彷彿とさせる? 目黒蓮が向き合った中途失聴者の苦しみ

『silent』が描く中途失聴者の苦しみ

 恋愛のプライオリティーが徐々に下がっている。というよりも、それに代わる多様な価値観が認められるようになった今。その影響はドラマにも如実に現れており、昨今のドラマのヒロインは大体がアラサーで、今後の人生について迷っており、その一つの要素として恋愛が描かれることが多い。そんな中、“恋愛”を主軸に置きながら既に多くの感動を呼んでいるのが『silent』(フジテレビ系)だ。

 本作から、同じく中途難聴・失聴者が登場し作中で手話が用いられる名作ドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS系)や『オレンジデイズ』(TBS系)を思い浮かべ、観直したくなった人も少なくないだろう。

 両作ともに数々の恋愛ドラマを手がけてきた脚本家・北川悦吏子の作品だが、『愛していると言ってくれ』の新進青年画家・晃次(豊川悦司)と劇団員で女優の卵・紘子(常盤貴子)も、『オレンジデイズ』の大学生・沙絵(柴咲コウ)と櫂(妻夫木聡)も、彼らが出会った時に既に晃次と沙絵は聴力を失っていた。そのため、彼らは互いの声を知らない。

 『愛していると言ってくれ』では、晃次の喉に手を当てて「こうすると声、聞こえそうな気がする」と無邪気に言う紘子の姿や、晃次の元恋人・光(麻生祐未)がついた「晃次の声が好きだった」という嘘に深く傷づく紘子の様子が描かれていた。また、『オレンジデイズ』では好きな相手の声が聞こえない辛さを沙絵が母親に泣きながら訴え、櫂になだめられるシーンもあった。

 ただ一方で『愛していると言ってくれ』でも『オレンジデイズ』でも、発話することに抵抗や恐怖心のあった晃次と沙絵のその声帯を震わせたのは愛おしい相手の名前だった。それぞれが条件反射的に、愛する人をもう失うまいと、考えるより先に声が出て呼びかけるあのシーンは何度観ても涙なしで観ることができない。

 これが『silent』では、主人公の紬(川口春奈)は聴力を失う前と後の想(目黒蓮)の姿を知っているのだ。つまり、紬は愛しい彼の声を聞いたことがあり、同じように想もまた彼女の声を聞いている。これがまだ多くは語られていない“彼らの空白の8年間”をありありと浮かび上がらせ切なさを募らせるのだ。

 まさに『愛していると言ってくれ』では、それが叶わない紘子にとっては「晃次の声が好きだった」という元恋人の嘘が最も残酷だったわけだが、本作では紬と想の当人同士でこの切り裂かれるような残酷さが立ち昇る。自身の病名がわかり、徐々に聴力が失われゆくのを知っている想からすれば、紬の「電話好き。声聞けるからね」「佐倉くんの声聞く度に思うんだよね、好きな声だなぁって」という何気ない日常的な会話が決して誰も悪くないのに彼の心を突き刺しえぐる。

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