『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』宴で起きた惨劇 ターガリエン家に迫る内戦と崩壊の時

『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』で起きた惨劇

※本稿には『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』第5話のネタバレを含みます。

 ヴィセーリス・ターガリエン(パディ・コンシダイン)とレイニラ(ミリー・オールコック)が嵐の中、ヴェラリオン家の領地ドリフトマーク島へと向かっている。踏み石諸島の一件以来、悪化していたコアリーズ・ヴェラリオン(スティーヴ・トゥーサント)との関係を修復すべく、王自らが王女の結婚を申し入れに向かったのだ。礼を尽くす王に対して島では出迎えも歓待もなく、和議はコアリーズの優位に進む。エピソード1から少しずつ描かれてきた王の容態は着実に悪化しており、ここでは船旅にも耐えられず、咳を続けるばかりで何とも弱々しい(筆者は当初、灰鱗病かと思っていたがどうやら違うようだ)。大人たちの政略とは対象的に、幼なじみでもあるレイニラとレーナー・ヴェラリオン(テオ・ネイト)の関係が終始穏やかなのはせめてもの慰めだろうか。互いに“務め”を理解しあう2人は、しかし結婚後の自由恋愛を認め合う婚前契約を交わす。レイニラは自身の内にある欲望を自覚しており、一方のレーナーは護衛の騎士サー・ジョフリー・ロンマウス(ソリー・マクラウド)との愛人関係にあった。

 ドリフトマークからの帰路、クリストン・コール(ファビアン・フランケル)はレイニラに駆け落ちを誘う。名前を捨て、エッソスに逃れて結婚しようという彼の未熟な言葉に、このドーン出身の若武者がろくに恋も知らぬままここまで来てしまったことが伺える。騎士の誓約を破った彼にとって、自身を保つ道はこれしかなかったのだ。王位継承者としての覚悟を決めているレイニラは誘いを一蹴すると、愛人関係の継続を提案する。

 このエピソードではクリストン・コールを中心にまたしてもレイニラとアリセント(エミリー・キャリー)が周到に対比されている。自身の持つ力に無自覚的なレイニラがクリストンを傷つける一方、アリセントは自分に大きな権力があることを自覚し始めていく。彼女はレイニラとデイモン(マット・スミス)の関係を問い質すべくクリストンを呼び出すと、この憐れな騎士はレイニラとの愛人関係が露見したと思い込む。事の真相と自分の前で男が狼狽する姿にアリセントはこれまで経験のないショックを受けるのだ(エミリー・キャリーの表情が素晴らしい)。この対象的な2つの出来事が後に惨劇を呼ぶ。

 『ゲーム・オブ・スローンズ』を経てきた視聴者ならウェスタロスで行われる結婚式が悪夢のイベントであることは十二分にわかっているだろう。第5話のハイライトはレイニラとレーナーのロイヤルウェディングだ。第4話に引き続き登板するクレア・キルナー監督はこの2エピソードで『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』におけるエース監督の座を獲得したと言っても過言ではない。衣装、目線、立ち位置といったあらゆる要素で登場人物の思惑とパワーバランスを交錯させ、“レッドウェディング”の数百分の1の血飛沫でそれを上回るサスペンスを成立させている。ヴェラリオン家が入場すればそこには王家と肩を並べた威容があり、(呼ばれてもいないのに)ふらりと現れたデイモン・ターガリエンの異様は彼が未だなお不穏分子であることを知らしめる。そして王の乾杯のスピーチをさえぎって現れた王妃アリセントが身にまとうのは、ハイタワー家が戦を告げる時のかがり火(おそらく鬼火だ)と同じ深碧のドレスだ。オットー(リス・エヴァンス)が失脚した今、王の嫡男を産んだ彼女こそがハイタワー家の実質的頭領とも言える。一族はじめ城内が総立ちになる中、ここで最も立場が弱いのは話の腰を折られ、何を喋っていたのかもわからなくなるヴィセーリス王その人だろう。

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