『雨を告げる漂流団地』のベースは『トムとジェリー』? 石田祐康監督が作品に込めた思い

『雨を告げる漂流団地』石田監督インタビュー

“喧嘩するほど仲がいい”を正面から描くために

――石田監督はオリジナルの短編映画『フミコの告白』で注目され、長編映画として初監督となった『ペンギン・ハイウェイ』では原作のある作品を手掛けました。今回は長編でオリジナル作品を監督されていますが、原作ものとは異なる大変さはありましたか?

石田:やはり、原作という共通のアイテムがないゆえに、理解をしてもらうことが一番大変でした。元になるものがないから、会議で出たぽっと出の意見でひっくり返ることもあるし、作品として語るべきものは何かという軌道も変化してしまうことがあります。意見で変わった部分も、それはそれで魅力的だと思えてしまうのも難しいところで、元になるものがないからこそ意見を出せる余地もある分、互いに必死にもなるので。宮﨑駿監督の『風の谷のナウシカ』はアニメ映画を作るためにも、プロデューサーの鈴木敏夫さんが「先に原作を作ってしまえばいいじゃん」と漫画を先に描き始めた話を聞いたこともありますが、確かに何もないところから始める難しさあるんだと思います。外向けの意味だけでなく内側の会議の場に対しても。ある程度経験を積めば、手練手管や話術なんかでやっていけるようになるのかもしれませんし、実際にそうやって作品を作っている人がいるんだと思いますけど、いろんな紆余曲折を経ていたら、3年半もかかってしまいました。

――そんな紆余曲折の中、ブレずに持ち続けてきた作品のコアはしっかり感じられるものになっていると思いました。特に、メインキャラクターの2人、航祐と夏芽のキャラクターの存在にそれを感じさせます。この2人はどのように造形していったのですか?

石田:この2人は、企画の紆余曲折にかかわらず最初からずっといたんです。もっといろんな組み合わせがあるんじゃないかと、様々な可能性を提示される中で、散々悩んで苦しかったんですが、この2人には描きたかったことが詰まっていると思います。「喧嘩するほど仲がいい」と言いますが、この作品は、喧嘩してすれ違ってしまった2人が、また仲良くなるためにきっとどうしても必要だった儀式を描いたような感触はあります。僕は『トムとジェリー』が大好きなんです。「喧嘩するほど仲がいい」ってまさにトムとジェリーの関係性ですけど、映画として、ギャグとかお約束的なノリで仲がいいのでなく、喧嘩したらちゃんと離れて、離れた分本当の意味でどうすればもう一度信頼しあえるのか。馬鹿正直に真面目な方向にはなってしまいますが、とにかく今の自分ができる限りの「喧嘩するほど仲がいい」を描きたいなと。これくらい過酷な体験を小学生にさせるのは、『トムとジェリー』や『ドラえもん』とも違いますが、やはりアニメ映画として暗くなりすぎないようバランスはほしいです。前半では漂流の旅にもどこか楽しさを出して、その分中盤以降では航祐と夏芽の過去にまつわる話もちゃんと描こうと。僕にはこの2人が他人には思えなかったし、少なくとも自分の中には居た感覚で書いていましたから、人として過去のそういう暗い部分も書かないのは嘘に思えますし、向き合う必要があったんだろうなと今は思います。

■配信・公開情報
『雨を告げる漂流団地』
Netflix全世界独占配信&日本全国公開中
出演:田村睦心、瀬戸麻沙美、村瀬歩、山下大輝、小林由美子、水瀬いのり、花澤香菜、島田敏、水樹奈々
監督:石田祐康
脚本:森ハヤシ、石田祐康
音楽:阿部海太郎
主題歌・挿入歌:ずっと真夜中でいいのに。
企画:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
配給:ツインエンジン/ギグリーボックス
製作:コロリド・ツインエンジンパートナーズ
©コロリド・ツインエンジンパートナーズ
公式サイト: https://www.hyoryu-danchi.com/
Twitter:https://twitter.com/Hyoryu_Danchi

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