『雨を告げる漂流団地』のベースは『トムとジェリー』? 石田祐康監督が作品に込めた思い

『雨を告げる漂流団地』石田監督インタビュー

 『ペンギン・ハイウェイ』で注目を集めた石田祐康監督のオリジナル長編アニメ―ション映画『雨を告げる漂流団地』が、9月16日から全国の映画館で公開、同日からNetflixで全世界配信される。

 本作は、取り壊しの決まっている団地に忍び込んだ子供たちが、突如団地ごとに海に漂流してしまう不思議な現象に巻き込まれ、初めての別れの旅を経験する物語だ。前作で見せたような、瑞々しいジュブナイル的な感性を今作でもおおいに発揮した、ワクワク感とスリルが同居するひと夏の冒険譚を作り上げた。

 石田監督は、短編自主映画『フミコの告白』で注目された後にプロとしてのキャリアを築き上げた、業界でも注目の作家の1人。そんな石田監督に、本作に込めた想いについて話を聞いた。(杉本穂高)

『映画ドラえもん』の大きな影響

石田祐康監督

――団地愛を感じさせる作品でした。石田監督も実際に団地にお住まいですが、団地の魅力とは何ですか?

石田祐康(以下、石田):こういう映画を作っておいてなんなのですが、自分が団地に住み始めて以来、映画作りが大変で、没頭しすぎてずっと籠りがちになってしまい、住んでみた上での団地の魅力を語る資格がまだないなあと思います(笑)。夏祭りなどの団地内での催し物などもコロナ禍の影響で全部中止になってしまったせいでもありますが、この映画が一段落したらちゃんと団地を満喫しないといけないと思っています。ただ、元々アパートでもマンションでもない団地と言う不思議な集合住宅には興味があったんです。団地って形がシンプルですよね、なんか無印良品みたいで、空母っぽいですし。今回の制作で、団地の監修もしていただいた、団地マニアとして有名な照井啓太さんが同じ団地に住んでいらっしゃるんですが、照井さんから団地について色々なことを教わりました。僕も団地が好きで映画を作りましたが、照井さんの好き度はレベルが違います(笑)。僕は照井さんからもらった熱量も映画に込めたつもりです。

――これは団地映画であると同時に、漂流ものの物語です。団地を舞台にして漂流ものをやろうと思ったのはなぜでしょうか?

石田:団地のようなシンプルなものが浮かんで漂流したら面白そうだなというごく単純な絵のイメージから今回の映画を発想しました。団地を舞台にすることと漂流ものをやろうというのがほぼ同時に浮かんできた気がします。『ペンギン・ハイウェイ』のインタビューなどでもよく言っていましたが、僕は子どもの頃『ドラえもん』の劇場版を観ていた影響が大きいと思います。『ドラえもん』の劇場版の物語って、言ってしまえば子どもたちが漂流しているようなものだと思うんです。のび太たちが異世界に行って帰ってくるわけですから。そういうものの影響が前提にあって、その上で団地を舞台に選んだような感じです。

――漂流ものは『ドラえもん』の影響というお話が出ましたが、団地を描くために影響を受けた、あるいは参考にした作品はありますか?

石田:実写映画で団地を舞台にした作品は結構あって、いくつか観ています。是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』や阪本順治監督の『団地』、古いものでは川島雄三監督の『しとやかな獣』など挙げればたくさんあります。僕の映画はそれらの映画と内容的には直接結びつきませんが、これだけ団地と銘打って作れば、好むと好まざるとに関わらずそういう過去の作品と並べられるなあ、という意識はありましたね。『しとやかな獣』は優れた映画として成立させるためにどういう視点を持たせていたのか、などの美的な感覚で感じ入るものがありました。あの作品は団地内という戦後にできた特異な空間を、様々な視点、構図で可能な限り探って演出されているのがすごかったですね。それが映画の面白さにちゃんと寄与していて。そういう視点や姿勢は学べたと思います。実際に、今回は団地の3DCGモデルを徹底的に作って、その中で自由にアングルを探れる状態にして、どのカットも考え得る限りのアングルを試そうとしました。作品性の違いはあるので、『しとやかな獣』のようなトリッキーなことはしてませんが(笑)。

――では、絵コンテはCGで色々なアングルを探ってVコンテ(動画コンテ)のようなものを作ったのですか?

石田:できればそうしたかったのですが、時間がなかったので、最初にざっくりとラフな絵コンテを紙で描いて、「この絵を成立させるためには、このアングルが良いよね」と3Dでレイアウトを探ったものを作画に渡す、という流れでした。絵コンテを描く上でも、イメージトレーニングで3Dカメラを回しながらアングルを検討するぐらいは事前にやっていました。

――団地を魅力的に描くために美術設定などこだわった点はありますか?

石田:作中の団地は架空のものですが、モデルにした団地はあります。すでに取り壊されてしまった団地なのですが、照井さんの豊富な団地資料の中から、その団地に関するものを提供していただきました。大量の写真と、近い形の団地の設計図なんかも。取り壊される前の航空写真などもネットで見つけて、色々な角度の写真を当てはめて3Dモデルを作っています。それで、主人公の航祐の部屋はこの辺りで、学校からの帰り道がここにあって、などの周辺環境も設定としておこしていきました。地味に役立ったのがGoogle ストリートビューです。その団地が取り壊されたのが2010年前後だったのですが、その地区のその時期はストリートビューの写真が撮られ始めた時期だったようで団地の写真が少し残っていたんです。ただ、写真が残っていないエリアもあったり、建て替えで道自体もなくなっていたりで、見れないか……と思っていたら、別のルートから侵入するとそのエリアが見られたりもして。ゲームの隠しルートを探すようなところがありました(笑)。そうやって資料をかき集めて美術設定を作りました。作画の打合せの時にもストリートビューを見せながらやった時もあります。

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