目で新しさを、口では懐かしさを 『ワンナイト・モーニング』はふたつの味を楽しめる

目と口で楽しむ『ワンナイト・モーニング』

 奥山ケニチのマンガを実写化した『WOWOWオリジナルドラマ ワンナイト・モーニング』が、毎週金曜日23時より放送、WOWOWオンデマンドにて全話一挙配信中(全8話)。様々なシチュエーションで男女が過ごす一夜(ワンナイト)×翌日の朝ごはん(モーニング)を描くオムニバス作品だ。

 元々の原作が持っている面白さ――「夜」と「朝」で男女の関係性が全く変わる特異なシチュエーション、平坦な人生に訪れる劇的な瞬間というドラマ性、そこに「おにぎり」や「ハニートースト」といった庶民的な朝ご飯を絡める独自性……etc.が、実写化されることでどのような変化を遂げるのか? いわゆる「食ドラマ」「ご飯×恋愛ドラマ」の人気が続く昨今の国内放送業界において、いち視聴者として気になっていた。

 オーソドックスなアプローチであれば、食を扱った数々のドラマがそうであるように「ほっと一息」系の“温もり”を押す人情ドラマになりそうなもの。手堅い手法であり味わい深い仕上がりにはなるだろうが、新鮮味はあまりない(そもそも必要なのか?という議論もあろうが)。原作が内包するエロスも薄まってしまうだろう。そんななか、制作陣が出した答えは、安パイとは真逆の攻めの姿勢だった。

 ドラマ『ワンナイト・モーニング』の監督に抜擢されたのは、写真家・映像作家として国際的に活躍する柿本ケンサク。林遣都と小松菜奈が共演した映画『恋する寄生虫』を手掛けた彼が、監督はもちろん撮影をも担当するという。この時点で、本作が昔懐かしい系の人情劇とは一線を画す、先鋭的なビジュアル押しの作品になるであろうことは想像がつく。

 脚本を手掛けるのは、東京を舞台に若者たちの苦悩をスタイリッシュに描いた映画『スパゲティコード・ラブ』が記憶に新しい蛭田直美。現代的な映像感覚との相性が良い群像劇を生み出せるクリエイターだ。そして、WOWOW作品であるという点。WOWOWオリジナル作品といえば気鋭の作り手を積極的に起用し、各々の個性を生かしたチャレンジングな個性的なラインナップが売りだ。直近でもホラー演出や性愛のメタファーに切り込んだ『青野くんに触りたいから死にたい』や異色のオムニバス『椅子』といったエッジーな作品を輩出している。

 したがって、WOWOWオリジナル作品といえば出演者の振り切った演技も見どころの一つとなる。そこに『恋する寄生虫』で林遣都から超・潔癖症の演技、小松菜奈から視線恐怖症の演技を引き出した柿本監督が加われば、本作でしか見られない演技を楽しめるに違いない、という予測が働く。そこでキャストを見てみると、総勢16人に及ぶ実に「活きのいい」若手俳優たちが揃っている。

第1話:上杉柊平×芋生悠
第2話:望月歩×伊藤万理華
第3話:栁俊太郎×浅川梨奈
第4話:河合優実×藤原樹(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)
第5話:前田旺志郎×池田朱那
第6話:川島海荷×水沢林太郎
第7話:石橋菜津美×水間ロン
第8話:青木柚×筧美和子

 『リバーズ・エッジ』の壊れた演技が印象的だった上杉柊平、『37セカンズ』『ソワレ』の芋生悠、『神は見返りを求める』の栁俊太郎、『サマーフィルムにのって』の伊藤万理華と河合優実、『MINAMATAーミナマター』の青木柚ほか、作家性の強い作品でポテンシャルを発揮してきたメンバーがずらり。さらに本作では、男女の掛け合いが見どころのひとつ。河合優実×藤原樹といったタイプもフィールドも異なる “二人芝居”は、どんな風合いになるのか予想がつかず、もう面白い。

 先ほど述べたように、『ワンナイト・モーニング』は夜と朝で男女の関係が激変するのが特長。身体を重ねても、そうではなくても、初対面でも知人であっても――。昨日までの両者には戻れない「運命の一夜と翌朝」を説得力をもって見せるためには、演技力が不可欠。しかも、柿本監督の世界観は色彩感覚含めてが独特で、リアルベース(現実準拠)とは大きく異なる。ビジュアルのパワーが強いぶん、演技によっては埋没しかねない。選ばれた若手たちにとっては、試される場でもあるわけだ。

 といったような形で各々の個性がぶつかり合う野心作になりそうな雰囲気が漂っていた『ワンナイト・モーニング』。その中身は、切れ味鋭い映像演出とキャストの躍動はもちろんのこと、しっかりと人と人が織りなすエモーションが乗った一作と相成った。

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