『ツルネ』に詰まった京都アニメーションの真髄 “劇場版”にふさわしい再構築

『ツルネ』に詰まった京アニの真髄

 『劇場版ツルネ -はじまりの一射-』は、TVアニメの再構成となる総集編作品の分類にはなるが、構成、作画、音響など、さまざまな要素が上手に絡み合い、まさに劇場で観るのにふさわしい体験を与えてくれる作品だ。今回は本作の魅力について紹介していきたい。

 本作の監督はテレビシリーズと同じく山村卓也が務め、京都アニメーションがアニメーション制作をしている。

 風舞高校の弓道部に所属する主人公・鳴宮湊は早気と呼ばれる、弓を構えた後に十分に狙いを定める前に弦を離してしまう心理面のトラブルに遭ってしまう。鳴宮湊は同じく早気を抱えていた滝川雅貴と出会い、コーチングを受けることで早気を克服していき、風舞高校の同級生たちと部活動で勝ち抜いていく、というストーリーとなっている。

 弓道というスポーツをアニメ化するのは、とても難しいように見える。ほかのスポーツや、柔道・剣道などの武道と比較しても、接触プレイが少ないほか、劇的で派手な動きが少ない。極端なことをいってしまえば、弓を引いて的に中(あて)る。それだけのスポーツともいえるために、アニメ表現として映えるような、サッカーでいえば走り回りボールを蹴る、野球でいえばバットに当てて遠くに飛ばすような、派手な動きそのものが少ないスポーツなのだ。

 さらに弓道描写の作画を難しくする要因として、型や体の使い方の美しさも評価の基準となる競技ということもある。作中では「高校生ではそこまで形は重視されるわけではない」と説明されているが、適当な形であっても、的に中てしまえばそれでいい、というものでもないだろう。正しい射形=美しい射形=最も中る射形であるという思想があり、アニメ表現として形の崩れは、経験者を中心とした視聴者にもすぐにわかってしまう。

 つまりアニメ表現における弓道とは派手さが少なく、ごまかしが効きづらいのにも関わらず、形の美しさも含めて正確性を問われる作画を必要とする競技といえる。

 そういった難しさを回避する方法として、例えば『キャプテン翼』などのように、現実には実現不可能とも思える突飛な必殺技を繰り出すという例もある。それは少年漫画の王道の魅せ方であり、決して変な手段ではないのだが、京都アニメーションは、弓道を写実的に表現することを選択した。

 今作のパンフレットにおいて演出を務めた太田稔が、こだわりのポイントとして所作を挙げているように、競技中、あるいは競技外においても、キャラクターたちの凜とした佇まいの美しさが堪能できる。弓道をモチーフとすると作画・作劇ともに難易度が高いようにも見受けられるが、京都アニメーションは写実的な描写にこだわったスタジオとしても知られ、まさに今作でもその力を発揮し、息を呑むほど美しい作画表現を見せてくれているのだ。

 さらに驚愕するのが、総集編としての編集手腕だ。通常、TVアニメシリーズの総集編映画は約13本、6時間ほどの物語を2時間弱に収めるために、物語が若干駆け足気味になってしまうことがある。しかし京都アニメーションは『劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』ではTVシリーズ2期前半の物語を大きくカットすることで、2時間で収まる1本の物語として再構成した実績がある。

 本作もまた、1本の映画として見応えのある構成となっている。TVシリーズ序盤で描かれていた鳴宮湊の抱える早気の描写を減らし、同級生である竹早静弥たちのチームメイトとの関係性、そして師匠である滝川雅貴との交流を中心として、人と人が交流して変化していく人間ドラマと、後半のチーム戦に物語を絞ることで、駆け足になりがちな感覚を減らすことに成功している。音響も衣擦れなど些細な音にもこだわり、静かな劇場で鑑賞することで、より臨場感が味わえる、まさに劇場版と冠するにふさわしい内容だ。

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