『ツルネ』に詰まった京都アニメーションの真髄 “劇場版”にふさわしい再構築

『ツルネ』に詰まった京アニの真髄

 そして京都アニメーションの作品を語る際に、毎回同じことを語ってしまうのだが、スタジオの理念ともいうべきメッセージが、どの作品も一貫しているようにも感じられるのだ。それを言葉にするならば、協調性やアニメ制作とは何か? というものになるだろうか。今作でもその理念と呼ぶべきアニメ制作における心構えを説いているようにも感じられた。

 例えば新規カットで制作された序盤の鳴宮湊が八坂八段の射を見た際に、弦音に心を射抜かれた場面からは、まさにタイトルにあるように「はじまりの一射」を感じさせる。そして作中でコーチである滝川雅貴が部員に指導する正しい射形のあり方、あるいは弓道への向き合い方は、アニメ制作、ひいては仕事や情熱を向けて取り組むべきこと全般にいえることではないだろうか。

 指導を重ねていく中で、部員や若い人々が悩み、苦しみながらも成長していく。しかし新米コーチとして指導に携わる滝川雅貴も、師として尊敬しながらも反面教師として捉えてしまう八坂八段の指導方法への反発を抱える。そして自らの指導者としての理想と現実に苦しみながらも、日々指導を重ねていく。この姿こそ、青春であり、同時に一般社会でも当たり前に行われている社員教育や新人指導の姿ではないだろうか。

 弓道という多くの人が知ってはいるものの、馴染みがある、とまでは言い難い競技を基に、普遍的な社会や人と人のドラマを紡いでいる。そして作中の高校生たちの爽やかさや悩みと、等身大に描かれていく人間関係は男女問わずに受け入れやすい作品だ。2023年の1月からは2期の放送も発表されており、劇場版を入り口とするのもいいだろう。

 鳴宮湊が惹かれた弦音と「はじまりの一射」は、観客の初心をも思い返させてくれる作品だ。凛とした静かな佇まいに心を奪われながら、自分の中にある理想の姿についても思いを馳せる。

■公開情報
『劇場版ツルネ -はじまりの一射-』
公開中
キャスト:上村祐翔、浅沼晋太郎ほか
原作:『ツルネ—風舞高校弓道部—』綾野ことこ(KAエスマ文庫/京都アニメーション)
監督:山村卓也
構成・脚本:山村卓也
脚本監修:横手美智子
キャラクターデザイン:門脇未来
総作画監督:丸木宜明
美術監督:落合翔子
3D美術:篠原睦雄
色彩設計:秦あずみ
小物設定:唐田洋
撮影監督:船本孝平
3D監督:山本倫
音響監督:鶴岡陽太
音楽:横山克
アニメーション制作:京都アニメーション
配給:松竹
製作:ツルネ製作委員会
©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネ製作委員会
公式サイト:tsurune.com
公式Twitter:@tsurune_anime
公式Instagram:tsurune_info

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる