『あなたのブツが、ここに』は “withコロナ”を生きるすべての人への応援歌

『あなブツ』はコロナ禍を生きる人への応援歌

 対比として描かれる周囲の人たちの「歯を食いしばって生きる様」を通じ、主人公・亜子の弱さ、中途半端さも浮き彫りになってくる。結局、亜子を雇ってくれる夜の店は見つからず、宅配業一本でやっていくしか道はなくなった。けれども、まだまだ「甘さ」の残る亜子に、先輩ドライバーの武田(津田健次郎)の叱咤が鉄槍のようにブッ刺さる。

「(荷物)一個一個が切実なんや!」
「無事に届けるんが、俺らプロの責任や。コロナのせいとかいう話ちゃう。やり過ごせる相手ちゃう。腹括られへんのやったらやめてくれ。迷惑や」

 ドラマを観ている私もハッとさせられる。週に何度となく利用し、コロナ禍になってますます利用頻度の増えた「配送業」に携わる人たちの苦労と、矜持と、覚悟。多少は知っているつもりで、まったくわかっていなかった己を恥じた。暑さと息切れで顔をクシャクシャにしながら「鼻マスク」で、尼崎の街を走り回る亜子を、テレビの前で拳を握りながら「頑張れ!」「幸せになれ!」と応援せずにいられない。そうしながら、観ている自分がいつの間にか励まされている。このドラマは、コロナ禍に生きる全ての人への応援歌だ。月曜日にのみ流れるED、ウルフルズの「バカサバイバー」に乗せてキレッキレのダンスを踊りながら亜子たちが訴えかける「生き残れ!」というメッセージに、なぜか涙が出る。

 亜子が担当エリアで荷物を届ける、さまざまな顧客たちの「生きる姿」も、彼女の背中を押す。荷物を受け取るやいなや「シッシッ!」と追い払うジェスチャーをしていた“意地悪ばあさん”の幸子(三島ゆり子)には要介護の夫がおり、だからこそ極度に感染を恐れていたことがわかる。「ドアを一枚隔てた先では、いろんな人が、いろんな人生を歩んでる」(亜子のモノローグより)。耳の不自由な女性・山下(大城桜子)からの心のこもった「ありがとう」の手話や、独居老人のさなえ(藤田千代美)の優しさに鼓舞された。さなえがくれた“飴ちゃん”を噛みながら、これまでの自分の「覚悟の足りなさ」を噛み締め、車中でむせび泣く亜子の姿がたまらなかった。

 第2週、8話のラストでは「腹を括」った亜子が、本腰を入れて宅配のプロになると誓う。人生「負け続けてる」と諦観しながら、中途半端に生きてきた29歳のシングルマザーが、家族と自分のために這いつくばって生きる覚悟を決め、リスタートを切る。「やり過ごせる相手ちゃう」とわかったコロナと共に、今、どうやって生きていくべきか。苦難だらけの人生でも腐らず、踏ん張りつづけるには、いかにあるべきか。亜子の人生をの乗せた軽バンが、今、走り出した。

■放送情報
夜ドラ『あなたのブツが、ここに』
NHK総合にて、毎週月曜~木曜22:45〜23:00放送【全6週】
出演:仁村紗和、佐野晶哉(Aぇ! group/関西ジャニーズJr.)、毎田暖乃、岡部たかし、津田健次郎、ゆうちゃみ、キムラ緑子ほか
脚本:櫻井剛
音楽:森優太
制作統括:櫻井壮一
プロデューサー:村山峻平、橋爪國臣
演出:盆子原誠、梛川善郎、佐原裕貴
写真提供=NHK

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