星新一の魅力は今もまったく色褪せない NHKでのドラマ化は理想のアレンジに
昔から、不思議なものに心惹かれてきた。小学生時代『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)や、ジャニーズJr.黄金期の始まりとも言われている、タッキー&翼が出演していた『木曜の怪談』(フジテレビ系)の『怪奇倶楽部』を恐る恐る観ては、学校の七不思議を友達と語り合った。
※この記事では作品のあらすじ・結末の一部に触れています。
いつも新しい星新一のショートショート作品
中学生になると、友人から勧められて読み始めた星新一のショートショート作品に夢中になった。90年代当時、星新一の作品の多くは60年代〜70年代に書かれたものだったのに、全く違和感がない。「なんでこんなに面白いのに、今書いたみたいに読めるんだろう」と、子ども心に不思議に思っていた。
星新一は、当用漢字のみを使った簡単な文章を心がけ、その時代にしかない時事性のある出来事や固有名詞を描かず、晩年も「ダイヤルを回す」を「電話をする」に直すなど、長く読み継がれるように作品を作っていた。
その作風は、2022年になった今でも古びることがない。
そんな世代を超えて読み継がれる“ショートショートの神様”・星新一の名作を厳選し映像化したオムニバス作品『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』(NHK総合)が、夜ドラ枠で放送された。
そのアイデアと先見性。まるで、現代が見えていて予言するかのようなストーリー。今改めて、星新一のすごみを感じるドラマだと思う。さらに、俳優と制作陣が再解釈を加え、より現代風にアレンジした仕上がりとなっている。
これまでの放送で印象にのこった2つの作品を紹介したい。
大多数の人が整形する近未来で
『見失った表情』は、1961年『ようこそ地球さん』(新潮社)所蔵作品。美容整形をする人が7割という近未来が舞台で、美容クリニックを経営する友人のもとへ、アキコ(石橋静河)は訪れる。自分の表情を理想的なものに変える「表情操作機」を使わせてほしいと頼み込む。
原作を改めて読むと、1960年代に書かれた作品とはとても信じられない。
原作と比べてみると、ドラマ版では変えている部分もある。「表情操作機」で自分がした表情を選択するとき、ドラマではコンタクトレンズ型の装置を目につけて瞬きで操作をする。原作では、服に隠したコントローラーでダイヤル操作をしていた。
アキコが表情操作機を使う理由が、原作では仕事で宇宙へ5カ月間行き、ずっと一人きりで過ごしたことで誰かと一緒にいたくなったというのが理由だった。ドラマ版では、いくつかのアレンジが、物語により説得力をつけていた。
アキコは、学生時代の知人・黒田(前田公輝)と再会し、意気投合しデートを重ねる。
「綺麗なだけじゃだめ。おいしい物をおいしそうに食べて、楽しいときは楽しそうな表情をする。本当の私は、そんなことができないから」と、自分のありのままを認められないアキコのモノローグが、今の世の中で周囲の目を気にしながら生きる私たちと重なる。
ラストシーンが近づくと、黒田はアキコにダンスを踊ろうと誘う。夜景の中でくるくる表情を変えながらステップをふむ石橋静河と前田公輝は、とても美しかった。そして、最後に見せた、アキコの本当の笑顔。ひとつの映画を観たような余韻があった。