今度は“迷惑”な阿部サダヲ 『アイ・アム まきもと』が教えてくれる心を通わせる大切さ
これまで数多くの作品で見事な怪演っぷりを披露し、注目を集めてきた俳優・阿部サダヲ。そんな彼が今度は「迷惑公務員を演じる」と聞けば、一体どんなキャラクターが見られるのだろうかと、それだけで胸が踊る人は少なくないはず。
9月30日より公開される映画『アイ・アム まきもと』で、阿部が扮するのは「おみおくり係」として市役所に勤める牧本壮、48歳だ。おみおくり係とは、孤独死を遂げた人の埋葬をするのがメインの仕事。引き取り手のいないご遺体を事務的に処理していくことも可能なのだが、牧本はそうはしない。
牧本には信念とも呼べるマイルールがあるのだ。
(1)葬儀は絶対にやる。
(2)参列者をなんとしても探し出す。
(3)納骨はギリギリまでしない。
それがたとえ遺族に拒否されても、刑事の神代(松下洸平)に怒鳴られても、市役所内で苦言を呈されても、だ。突っ走るクセがあるのは自分でも承知している。「まきもと、こうなっちゃってました」とそのときは反省するものの、だからといってルールを破ることはできない。
そのうえ牧本は、圧倒的に空気が読めない。「アレだよ、アレ!」なんて含みのある言い方をされても「わかりません」と真顔で答える。「子どもはいる?」という質問にも「いません」ではなく「いりません」と答えてしまう。そのズレたやりとりも、傍から見ている分にはクスッとできるもの。だが、「本気で聞いてる?」「恐ろしく察しが悪いな」「あんたって人はもう!」と行く先々で人をイライラさせてしまうのだ。
しかし「いい加減にしてください、牧本さん!」そんな声が各所から聞こえても、屈することなく飄々としている牧本。そんな彼に観ているこちらもつられて「やれやれ」と思ってしまいそうなところだが、ふと考えさせられるのだ。亡くなった人の思いを汲むという、牧本の使命感はそんなにも「非効率的だ」と非難されるものなのだろうか、と。
国土交通省の調べによると、毎年1400人以上の15~64歳の人が孤独死をしているそうだ(※)。また、その数字は年々増加傾向にあり、2003年に比べて2018年は2.5倍以上。さらにその数は増えていくことが予想されるそうだ。その数字に「なるほど」とは思うものの、カウントされている1人ひとりに思いを馳せることはなかなかない。
故人がどういった生涯を送ったのか、その知らせを聞いて誰が涙を流し、どんな思い出を振り返ったのか……。「死んだら終わり」と割り切ることが大事な場面もあるが、悼む気持ちにも効率を求める必要はないのではないか。牧本の懸命な姿に、私たちは何か生産性と引き換えに大事な部分を忘れてはいないか、と問いただされるような気持ちになる。