『PSYCHO-PASS』最新作が目指すものは? 時代を先取りしていたシリーズを振り返る
『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』の制作が8月14日に発表された。2012年のテレビ放送1期の放送開始から10年の「10周年記念プロジェクト」となる。根強いファンを獲得してきたシリーズの新作ということもあり、注目している方も多いのではないだろうか。この記事では『PSYCHO-PASS』シリーズについて振り返っていきたい。
『PSYCHO-PASS サイコパス』は、2012年にフジテレビ系列ノイタミナ内で放送されたテレビシリーズを基とした一連のシリーズ作品だ。テレビアニメが3期、劇場版も1話60分の3部作を1作として数えると、3作品が公開されている。1期テレビアニメの総監督に『踊る大捜査線』(フジテレビ系)シリーズなど、テレビドラマを中心に大ヒット作を生み出してきた本広克行が起用されたことも、大きな話題を呼んだ。
物語の舞台は公安に所属する警察官が活躍する2112年の日本。人々の性格などを分析し、心理状態を管理する「シュビラシステム」を導入した世界で、そこで最も重要視される数値が犯罪を起こす可能性を示す「犯罪係数」だ。犯罪係数が高まれば、その時点では犯罪に手を染めていなくとも、いずれは凶悪な犯罪を起こすとされ「潜在犯」として裁かれてしまう。究極の管理社会で治安維持に努める公安の警察官たちの姿が描かれていく。
本シリーズが放送開始された2012年は、2008年に発生した秋葉原無差別殺傷事件などの凶悪な事件の影響で、社会と繋がりを持たずに犯罪に走る可能性がある人、通称“無敵の人”が注目を集め始めていた時期だ。無敵の人を生み出さないために、社会が福祉などの手を広げる必要があるという見方が、現実的な犯罪を防ぐ選択として重要だと叫ばれていた。その一方で、表に出てきづらい無敵の人や、あるいはその予備軍とされる人と、どのように向き合うのかが課題となっていた。
『PSYCHO-PASS』シリーズで描かれている潜在犯とは、まさに無敵の人と言えるだろう。犯罪に手を染める前に、その人物を逮捕することができたら……という夢想を、この作品は見せてくれる。それは一般社会に暮らす多数の一般人にとっては理想郷かもしれないが、潜在犯とされてしまう人にとっては悪夢でしかない。
本作のようにAIが人々を評価し、監視する社会は決して絵空事ではない。現実の社会においても、中国ではAIによる顔認証から個人の決済情報などを管理しており、一般の鉄道に乗るのにも身分証明書付きのICチップが必要になっている。中国ほどではないが、日本においては信用情報を基にその人物へのローンやクレジットの貸付審査を行っていたり、あるいはマイナンバーカードにて人物のデータを一元管理する方法が浸透し始めてもいる。都心では至るところに監視カメラも設置されている。
もちろん、これらが全て悪い面しかないと考えるのも早計だろう。街中にある監視カメラは事件が起こった際に状況を詳しく分析するのにも使われているし、マイナンバーカードなどの個人情報がデジタルと紐付けされることで、生活が便利になっている面もあるだろう。その延長線上と考えれば、監視カメラやデジタルデータでの管理を受け入れたように、社会の治安維持のためには、犯罪係数の管理も仕方ない……そういう未来の到来も、決して絵空事ではない。
AIの発展によるデジタルを用いた人々の管理は、恩恵をもたらすと同時に、時には人権すらも統制し、一般人を縛り付けることにもつながる。『PSYCHO-PASS』シリーズは、社会治安と倫理の問題を揺さぶるSF作品として機能しているほか、3期では問題をさらに広げ、移民問題についても言及されている。