『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』世界的人気の理由を探る TikTokトレンドが口コミを牽引?

『ウ・ヨンウ』なぜ世界的人気に?

 8月18日の配信で最終回を迎えた『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の海外での人気が爆発している。アジア圏だけでなく、アメリカをはじめとした欧米でもランキングに入り、Netflixが毎週発表しているグローバルTOP10ランキングでも毎週視聴時間記録を伸ばしながら1位をキープしている。ショックバリューの強い『イカゲーム』『今、私たちの学校は…』『地獄が呼んでいる』などで韓国ドラマはNetflix定番の人気コンテンツとなったが、それらのドラマとヒューマンストーリーの『ウ・ヨンウ』の人気は同等に捉えにくい。いくつかの考察とデータから、世界における『ウ・ヨンウ』人気の理由を探ってみたい。

米リメイク『グッド・ドクター』の成功の影響

 2013年に韓国KBSで放送された『グッド・ドクター』は、自閉症とサヴァン症候群を抱えた青年医師を主人公にしたドラマ。2018年には山﨑賢人主演で日本でもリメイクが制作されている。アメリカでは、フレディ・ハイモア主演の『グッド・ドクター 名医の条件』が2017年よりABCで放送中、10月3日からシーズン6が放送される。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のウ・ヨンウ(パク・ウンビン)は、自閉スペクトラム症を抱える新人弁護士で、ソウル大学ロースクールを主席卒業した設定。『グッド・ドクター』同様、特定分野で並外れた才能を発揮する特性がキャラクターと設定に活かされている。医療ドラマと法廷ドラマは、アメリカでも人気ジャンルのトップに挙げられるので、この2つのドラマが人気を博すのも納得できる。とはいえ、『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞を獲ったのが2020年、『イカゲーム』で初めて韓国ドラマに触れたような諸外国の視聴者が、この2年で『ウ・ヨンウ』のようなヒューマン系ドラマを楽しむまでに急激に成熟したのだろうか?

NetflixグローバルTOP 10での驚くべき好成績

 『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は6月29日より毎週水木に韓国での放送後にNetflixを通じて世界配信されている。配信開始第2週目のエピソード3、4から爆発的人気となりNetflixの世界ランキング初登場1位、直近の8月8日から8月14日のランキングでも、非英語テレビシリーズ部門で1位を記録している。(※1)以来6週連続、そのうち1週(7月18日から7月24日は2位)を除いて、1位をキープという脅威的な人気を誇る。韓国ではENAという、『愛の不時着』や『私たちのブルース』のtvNでも、『梨泰院クラス』『私の解放日誌』のJTBCでもない、海外視聴者にはあまり馴染みのないケーブルテレビ局で放送されている。

 もともと韓国作品の人気が高いアジア諸国でのランクインが始まり、第4週目では2位に落ちたものの、英語圏のオーストラリア、ニュージーランド、南米やアフリカに人気が広がっている。6週目からはアメリカやヨーロッパのルーマニアなどでもランクイン、直近の週はギリシャや中南米諸国でのランキングが上がっている。

 Netflixのランキングは総視聴時間の合計。以前は2分以上視聴したアカウント数の合計で集計していたが、グローバルランキングの公開時に集計方式を変更している。そのため、シリーズ全話が一気に配信されるNetflixオリジナル作品がビンジウォッチングを誘い、ランキングに入りやすい傾向にある。『ウ・ヨンウ』はNetflixが海外配信権を獲得するライセンス作品で、韓国での放送と同日に配信されている。だんだん口コミが拡散し、次週までに配信分を消化してリアルタイム視聴に追いつく視聴者が増えていき、週を追うごとに視聴者数(視聴時間)が伸びている。さらに、ここ3週の総視聴時間は2位の作品の2倍、3倍の長時間を記録。今週の6936万時間は、英語シリーズ1位の『サンドマン』(1億2750万時間)に次ぐ数字で、総合でも2位ということになる。一度視聴を始めた視聴者を長時間引きつけておく作品の力が可視化されている。

配信時期のプログラミングに勝機が?

 配信時期の編成にも理由がありそうだ。6月24日には、『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』のシーズン1前半の6話が配信されている。今作は、スペイン発のNetflix随一の外国語人気シリーズの『ペーパー・ハウス』の韓国版リメイク。配信開始から2週目までグローバル非英語テレビシリーズで1位、3週目が2位で、翌週の7月4日から7月10日のランキングでは姿を消し、代わりに『ウ・ヨンウ』が1位に躍り出た。『ペーパー・ハウス・コリア』がランクインしていた国もオリジナル版が強い南米・ヨーロッパが多く、そのうちエジプトやペルーは、7月11日からのランキングで『ウ・ヨンウ』に鞍替えしているのがわかる。つまり、『ペーパー・ハウス・コリア』を観た『ペーパー・ハウス』推し国の視聴者がそのまま韓国ドラマの世界にハマり、『ウ・ヨンウ』にスライドしていったと考えられる。そしておそらくこの動きはNetflixにとっても「想定外」。7月19日に行われたNetflix第二四半期決算発表で、財務担当役員が注目しているコンテンツとして『ウ・ヨンウ』を挙げていたのは、Netflixオリジナルの韓国作品(配信時期は変更可能)とライセンス作品(配信時期固定)のプログラミングについての貴重なデータが取れているからかもしれない。加入者数の減少傾向を食いとめ、ARPU(Average Revenue Per User、加入者一人当たり平均売上)の向上が命題となっている今のNetflixにとって、これだけの視聴時間を毎週稼ぐコンテンツはまさに天恵と言える。

 ちなみに昨年Netflixで観られたテレビシリーズの世界1位は『イカゲーム』で、2位が『ペーパー・ハウス』。12位に『グッド・ドクター 名医の条件』、15位に法廷劇の部類にも入る韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』、26位にヒューマン系の韓国ドラマ『海街チャチャチャ』が入っている。(※2)

 1位の国が2位の題材で作るドラマはヒットが約束され、米リメイク版『グッド・ドクター』と、人のつながりの温かさを描いた『海街チャチャチャ』ですでに世界観を共有していた世界は、『ウ・ヨンウ』を楽しむ準備ができていたともとれる。

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