『グレイマン』が思い起こさせる往年のアクション映画の面白さ シリーズ化には課題も?

『グレイマン』は懐かしさを覚える一作に

 製作費推定250億円以上という、配信映画として最大といえる巨費が投じられた、アドベンチャー・アクション映画『レッド・ノーティス』(2021年)。同じくNetflixで配信が始まった『グレイマン』は、同程度の規模でド派手なアクション映像を提供し、話題となっている。劇場で1週間前より先行公開されたとはいえ、配信作品にこれだけの製作費をかけるという試みは圧倒されるものがある。

グレイマン
Paul Abell/Netflix (c)2022

 ライアン・ゴズリング、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、そしてビリー・ボブ・ソーントンが出演し、映画『アベンジャーズ』シリーズなどを手がけたルッソ兄弟が監督を務めたことでも耳目を集めている本作『グレイマン』は、意外にも非常に懐かしさを覚える一作だった。

 アメリカでは1980、90年代に、『ランボー』や『ターミネーター』、『ダイ・ハード』、『スピード』などに代表される、実写によるアクション映画が盛んに撮られ、好評を博した。より大きなヒットを見込み、その続編や売れっ子アクションスターの作品には巨額の製作費がかけられ、現在は“洋画ばなれ”が進んでいる日本でも例に漏れず、爆発やスピード感など、刺激的なシーンを楽しむため、大勢の観客が劇場に足を運んだのだ。

 それらの大枠でのジャンルの源流といえるアルフレッド・ヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』(1959年)で、ド派手な爆発炎上シーンが公開当時話題になったように、エスカレートしていく火薬量や大がかりな仕掛けが、観客にカタルシスやスリルを提供していたのである。

 『ミッション:インポッシブル』第1作(1996年)では、そんな時代のなかで、主演とプロデューサーを兼ねるトム・クルーズが、ブライアン・デ・パルマ監督に注文をつけ、より刺激的で見栄えのするアクション描写や、ボルテージを上げる音楽を追加させたという。また、ジェームズ・キャメロン監督の『トゥルーライズ』(1994年)や、レニー・ハーリン監督の『ロング・キス・グッドナイト』(1996年)は、爆発シーンの迫力をエスカレートさせることが、もはやユーモアとして機能するまでになった。

 製作側自ら、アクション映画の華といえる爆発をギャグにしてしまうほど、行くところまで行ってしまった感のあるアクション映画ジャンルは、その後トム・クルーズやマイケル・ベイ監督の作品や、『ワイルド・スピード』シリーズなど、かつての価値観をできる限り維持している例を除けば、勢いが削がれた状態にあるといえるだろう。その代わりに、実写アクションの派生といえる、アメコミヒーロー原作の大作映画が、ハリウッドを席巻しているのだ。そこでは、キャラクター同士の関係性や、作品にまたがるストーリーや設定の大きな流れなど、アクション以外の要素もヒットを支える要因となっている。

グレイマン
Paul Abell/Netflix (c)2022

 その意味でいうと、本作『グレイマン』は、ほとんどアクションシーンの連続で見せていく、オーソドックスな大作アクション映画ということになる。SF要素もファンタジー要素もない、直球の内容は、80、90年代に、どれだけ刺激的なアクションが表現できるかでクリエイターたちがしのぎをけずっていた、当時の明快な映画の面白さを思い起こさせるものだ。

 ライアン・ゴズリング演じるのは、アメリカの諜報機関に雇われた、元囚人の殺し屋、コードネーム「シックス」。彼は、政府内部の陰謀に巻き込まれ、エージェントのミランダ(アナ・デ・アルマス)とともに、凶悪な暗殺者ロイド(クリス・エヴァンス)の襲撃に立ち向かうこととなる。『ジャック・ライアン』シリーズのマーク・グリーニーの原作を、かつて「ローラーコースター・ムービー」と呼ばれたような、アクション場面が連続する、より娯楽的な内容に仕上げている。

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