アクション超大作『グレイマン』が隠れヒット Netflix作品の劇場公開に変化の兆し?

アクション超大作『グレイマン』が隠れヒット

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 先週末の動員ランキングは、『キングダム2 遥かなる大地へ』『ミニオンズ フィーバー』『トップガン マーヴェリック』の3強に変化なし。公開9週目に入った『トップガン マーヴェリック』は公開から60日間で動員619万2940人、興収97億4891万180円を記録。2000年公開の『ミッション:インポッシブル2』を抜いて、トム・クルーズ主演作品として日本国内で歴代2位に。今週中にも、実写外国映画としては『アラジン』(2019年版)以来の興収100億円の大台に超える。

 ランキングで目を引くのは初登場5位の『ゴーストブック おばけずかん』の苦戦ぶりだ。オープニング3日間の動員は6万6459人、興収は8549万2500円。東宝の夏休み作品でオープニング成績が1億円にも届かないというのは、ちょっと前例が思い出せないほど。ちなみに今回の『ゴーストブック おばけずかん』のオープニング成績は、3年前の同時期に公開された同じ山崎貴監督の『アルキメデスの大戦』(最終興収19.3億円)の4分の1以下。『アルキメデスの大戦』以降、強力なフランチャイズ作品で凡庸な結果を残し続けてきた山崎貴監督。かつてのヒットメイカーも、その凋落傾向に歯止めがきかなくなっている。

 ランキング外の作品だが、公開2週目に入ったルッソ兄弟監督、ライアン・ゴズリング主演のNetflix作品『グレイマン』で面白い動きが見られる。本コラムで再三取り上げてきたように、Netflixで配信される1週間前に劇場で公開されるNetflix作品の興行は、業界団体による締め出しよって上映館が限定されていること、配給を担うNetflixが映画館での上映に関するプロモーションをほとんどしないことなどから、これまでNetflix本社の方針から都市部を中心にアリバイ的におこなわれてきた。しかし、今回の『グレイマン』は少ない上映回数ながら劇場によっては平日でも客席が埋まっていて、特殊な音響設備によるブーストサウンド上映をおこなっているシネマート新宿では「大好評につき無期限延長」と謳うなど、局地的な盛り上がりをみせている。

 同作はNetflixオリジナル作品ではあるものの、製作費2億ドル超えのアクション超大作。作品の規模としては本来「夏休み映画の目玉」となってもおかしくないような作品だけに、できるだけ大きなスクリーンやできるだけ優れた音響環境で観たいという要望があるのは当然だろう。Netflixが映画館での上映に積極的でないのは、少しでも多くの人を配信視聴に誘導することによって契約者を増したいという思惑があるのだろうが、サービス開始の初期段階ならまだしも、現在のようにサービスがある程度まで普及したなら、未契約者にも作品の存在を広く知ってもらうためにも、劇場公開と配信の相乗効果を狙うようなプロモーション展開があってもいいのではないか。

 実際、北米のNetflixは今回の『グレイマン』劇場公開に合わせて、数年前に買収した傘下の老舗の映画館で、ルッソ兄弟がセレクトした名作の回顧上映などのイベントをおこなっている。日本でも経営の厳しい老舗の映画館や名画座をサポートしつつ、『グレイマン』のような強力作品の配信前に作品の先行上映や関連イベントを展開するようなプロモーション戦略を検討してもいいタイミングなのでは? 7月22日の配信開始と同時に世界各国で再生回数のトップとなって、早々に続編とスピンオフの製作が発表された『グレイマン』。数年後、『グレイマン2』が公開される頃には、少しでも日本国内におけるNetflix作品の貧弱な上映環境が改善されていることを願う。

■公開・配信情報
Netflix映画『グレイマン』
一部劇場にて公開中
Netflixにて全世界独占配信中
監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
脚本:ジョー・ルッソ、クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー
原作:マーク・グリーニー『暗殺者グレイマン』シリーズ
出演:ライアン・ゴズリング、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ジェシカ・ヘンウィック、ワグネル・モウラ、ダヌシュ、ビリー・ボブ・ソーントン、アルフレ・ウッ ダード、レジェ=ジーン・ペイジ、ジュリア・バターズ、エミ・イクワーカー、スコット・ヘイズ

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