『グレイマン』が思い起こさせる往年のアクション映画の面白さ シリーズ化には課題も?

『グレイマン』は懐かしさを覚える一作に

 このようなオーソドックスなタイプのアメリカの実写アクション映画が落ち込んでいった、大きな理由の一つは、CG(コンピューター・グラフィック)技術の発達により、現実ばなれした映像表現が、比較的容易に生み出せるようになった点が挙げられるだろう。だからこそ、スーパーヒーローやファンタジーの主人公が活躍する作品が支持されることが多くなったのではないか。

 本作の監督であるルッソ兄弟もまた、ヒーロー映画で成功し、いまではハリウッドで多くの大型プロジェクトを担うようになった、トップクリエイターだ。そんな監督が、わざわざ古いスタイルを志向したアクション大作を手がけたのである。これは、同じくNetflix配信のアクション映画で、『マイティ・ソー』シリーズのクリス・ヘムズワースが主演した『タイラー・レイク -命の奪還-』(2020年)のアプローチに近いといえる。これらの作品に、なにやら不思議な熱が宿っているように見えるのは、このような試みが、いまでは希少になっているからであろう。

 この試みの裏には、いま隆盛を極めているアメコミ映画を牽引している、ディズニーやワーナーに対抗しようとする、Netflixの狙いがあるのだろう。とくにディズニーは、ヒーロー映画シリーズに配信ドラマシリーズを組み合わせ、メディアミックスで相乗的なヒットを成し遂げている。皮肉なことに、この分野では配信作品を送り出しているNetflixの方が、ここでは内容的に、むしろかつての映画作品の価値観で映画づくりをしているのである。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)の後、ルッソ兄弟がApple TV+の配信作品『チェリー』(2021年)を撮ったのと同様、そんなNetflixのアプローチが、ヒーロー映画からの離脱をはかっていたルッソ兄弟の希望と合致していたのだろう。

グレイマン
(c)2022 Netflix, Inc.

 本作は見せ場の連続といえる内容だが、その最大といえるアクションは、50億円を投じたといわれる、プラハ市街のシーンだ。ここでは、走行するトラム(路面電車)で、シックスが生き延びるべく熾烈な銃撃戦を繰り広げる様子が楽しめる。この部分の撮影は、市街の一部を封鎖し、トラムを模した車両を実際にかなりのスピードで走らせながら撮影しているという。CG技術も使用されているものの、トラム走行中の活劇は、そのような実写撮影ならではの魅力が最大限に発揮されている箇所である。本作では、とくにこのような部分に注目してもらいたい。

 大勢の敵と銃撃戦を繰り広げながら生き延びるというのは、娯楽アクション映画ならではの荒唐無稽な展開といえるが、主人公シックスは、ビル群に映る車両の影を見ながら視界を確保したり、直線走行に入るタイミングを見極めて前方の車両の敵を射撃するなど、現場で冷静な対処ができることが強調されている。このような描写があるからこそ、シックスが生き延びていく流れに説得力が生まれている。ド派手なアクションが売りの本作ではあるが、このような繊細な部分があることで、単純な内容にも奥行きが出ているといえる。これは、『ダイ・ハード』シリーズにも通底する部分だろう。

グレイマン
Courtesy of Netflix (c)2022

 とはいえ、今後シリーズ化、ユニバース化も予定されているという本作が、『ダイ・ハード』シリーズのようなアクションの魅力に溢れているかというと、そこはまた別の話だ。本作におけるアクションの数々は、過去のアクション映画への愛情を感じられる一方、独自の創造性が希薄なのである。

 また、ライアン・ゴズリングは果敢にアクションをこなしているものの、彼が演じているキャラクターは、ブルース・ウィリスが演じたジョン・マクレーン、メル・ギブソンが演じたマーティン・リッグス、キアヌ・リーブスが演じたジャック・トラヴェン、トム・クルーズが演じたイーサン・ハントなどと比べると個性の際立ちが弱く、彼らにいま一歩、二歩ほど及んでいないように感じられるのだ。

グレイマン
Stanislav Honzik/Netflix (c)2022

 全体的には、映画界において貴重な試みを感じられる『グレイマン』ではあるものの、この内容の二点について考えたとき、加入数が頭打ちになっているとの声もあるNetflixが、今後巨費を投じ続ける価値のある企画なのかどうかについては、微妙なところにあるといえるのではないだろうか。予定されているという次作では、ここに新たな試みが追加されることを期待したいところだ。

■公開・配信情報
Netflix映画『グレイマン』
一部劇場にて公開中
Netflixにて全世界独占配信中
監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
脚本:ジョー・ルッソ、クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー
原作:マーク・グリーニー『暗殺者グレイマン』シリーズ
出演:ライアン・ゴズリング、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ジェシカ・ヘンウィック、ワグネル・モウラ、ダヌシュ、ビリー・ボブ・ソーントン、アルフレ・ウッ ダード、レジェ=ジーン・ペイジ、ジュリア・バターズ、エミ・イクワーカー、スコット・ヘイズ
Courtesy of Netflix (c)2022

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