『ペーパー・ハウス・コリア』をスペインオリジナル版と比較 改変されたことと失ったもの

韓国版『ペーパー・ハウス』オリジナルと比較

オリジナルから失われたようにも感じる“旨味”

 韓国作品に共通する強みは、ヒューマンドラマを深く掘り下げ、美しく魅せることだと考えている。それは恋愛作品に限らず、全ジャンルにおいて行われていることで、登場人物の過去や背景を存分に利用して非常にエモーショナルな形でキャラクターを作り上げるのが印象的だ。スペイン版は毎話ごと、徐々に強盗メンバーそれぞれの背景や、5カ月の訓練期間でのやり取りなどの過去がフラッシュバックの形で描かれていくため、大きな物語のイベント(警察官とのやり取りや事件)以外に、キャラクターを知っていくこと自体がドラマの面白さでもあった。それによって彼らの動機や言動を理解していき、愛着が湧くようになっていて、それこそ教授の思惑通り彼らを“悪者”と認識しなくなる。むしろ、計画が成功してほしいと応援したくなるのだ。この辺のオリジナルの旨味が、韓国がリメイクする上でかなり親和性の高い要素だと感じていた。

 しかし、韓国版ではオリジナルに比べて強盗メンバーそれぞれのキャラクター性があまり掘り下げられていない。それどころか、みんながあまり仲良くないのだ。スペイン版はそこの友情、絆も応援したくなるポイントだったのに対し、韓国版は仲間割れをして、お互いがお互いを傷つけようとする。そこには5カ月間の計画準備期間にみんなでご飯を食べたり、夜中に踊って遊んだりしていたオリジナル版にある“親密になる過程”も描かれていない。なお、スペイン版が一部を除いて強盗犯と人質の歩み寄りを描いたのに対し、韓国版は同じように描きつつも、人質同士がいがみ合うなど非常に攻撃的で、強盗犯に暴行を加えるシーンなどが印象的だった。究極的な環境で、どんな立場の人間でも歩み寄ることができる“平和的な友好”を描いたスペイン版がおとぎ話であるとでも言うように、韓国版は実際にそんな環境で人が出す本性や“対立”を描いているのが大きな違いなのである。

 キャラクター同士の関係性を物語の中で巧みに利用したスペイン版と比べてしまうと、結局同じカップルを成立させようとするも、出来事の順序を変えてしまった韓国版は、そのせいでやや後付け感というか、その瞬間の脚本上の都合のためだけの関係性に見えてしまった。しかし、そこの改変はスペインと韓国における、男女の惹かれるスピード感の解釈の違いの表れかもしれない。どちらも数日間の物語で、その間に出会い、恋に落ち、体の関係になって心の支えになるカップルが複数いる。韓国版はそのうちの1組を物語の都合上、オリジナルに寄せて描いていたものの、もう1組を事件発生よりも前に出会わせて恋仲にしているのだ。「そんな数時間前に会った男を信用して、愛せるものか」という具合に、ヨーロッパとアジアの文化的な違いを少し感じさせられる改変は興味深いものである。

 しかし、やはりオリジナルのもつキャラクター同士のアフェクティブな関係性という旨味がないため、スリリングな展開だけを淡々と描いた印象のある『ペーパー・ハウス・コリア』。スペイン版を観ていなければ、気にならない部分は多いかもしれない。それにリメイクにおいて、キャラクターの解釈を変えたり、大胆に新しい展開にしたりすることは良いことだ。実際、教授を演じる『オールド・ボーイ』の悪役でお馴染みのユ・ジテや、ベルリンを演じる『イカゲーム』サンウ役のパク・ヘス、造幣局長のチョ・ヨンミン役を演じる『パラサイト 半地下の家族』のパク・ミョンフン、デンバー役を演じる『悪の花』のキム・ジフンなどが素晴らしい演技を見せてくれた。特に、造幣局長とデンバーはオリジナルよりもそのキャラクター性が強まっている点が良く、この二人を追っていくのが本シリーズの楽しみ方でもあるだろう。

 他の登場人物で言えばナイロビやヘルシンキ、オスロの再現度も高い一方で、オリジナルで花形だったトーキョーが本作では少し波紋を呼んでいる。彼女が自分の都市、東京を選んだ理由を「だって、悪いことするんでしょ(吹き替え:だって、悪さをするんだろ?)」というように言ったからだ。これに対し、周りも「頭がいい」と褒め、称賛するシーンがある。本来、オリジナルでは東京を選んだ理由が恋人と行きたかった場所、というキャラクターの切なさを強調させる設定になっているのに対し、この必要性のない攻撃的な改変に韓国国内を含め、既に議論を呼んでいる。このように、キャラクターが魅力的に思えないように描かれてしまった点も、物語に愛着を持つことを阻害させられる要因になっているかもしれない。純粋な物語の面白さ、キャラクター描写、オリジナルとの比較、あらゆる点で評価が分かれる作品になることは間違いないだろう。

■配信情報
『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』
Netflixにて全話独占配信中

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